第14話 魔石術で冷暖房!?
セレイナさんが提案したのは冷暖房だった。
火魔石と冷魔石、そして風魔石を動力源として室内を暖かくしたり涼しくできる魔道具だ。
確かにこの辺りは冬になると雪が積もってものすごく寒くなるとおじいさんが言っていた。
冬に備えて暖炉を作ろうかと考えていたけど、作れるならそっちのほうがいい。作れるなら。
「うーん……。冷暖房は無理かなぁ。僕の魔石術は僕の知識の範囲でしか使えないんです」
「つまり複雑な仕組みの魔道具は無理ってわけ?」
「はい……。もちろん、作れるならそっちのほうがいいと思います」
「じゃあ、作れるようになっちゃいましょう」
「えぇ?」
セレイナさんがメモ用紙らしきものとペンを取り出した。指にペンを乗せてくるくる回して、なんだか得意げだ。それどうやってやるんだろう?
「そんなの持ち歩いてるんですか?」
「何かあったらメモしておけば忘れないでしょ? それより冷暖房の作り方を今からレクチャーするわ」
「はぇ!? セ、セレイナさん、そんなの作れるんですか!?」
「あんなの作り方さえわかれば簡単よ。興味が湧いたものは徹底して調べないと気がすまなくてね。昔はよく分解して怒られたわ」
もしかして追い出された原因の一つでもあるんじゃ。いやいや、それは言わない言わない。
「分解したからって、それで理解して作れるものなんですか?」
「私は天才なの。それに魔術師たるもの、あらゆる可能性を追求しなくてどうすんのって感じよ」
「天才……」
「私からすればリオ君も天才よ? だからそう見込んで作り方を教えてあげるのよ」
「そんなわけないですって……」
魔道具は専門の魔道具職人が作るものだ。
攻撃魔術ばかりが持て囃されてるけど、そういう人達だっている。だけど魔術師より身分とか地位は低いらしい。
「じゃあ、大まかな仕組みを教えるわね」
それからセレイナさんの魔道具製作講座が始まった。
紙に書いてわかりやすく説明してくれて、驚くほどすんなりと頭に入ってくる。
仕組み、必要な部品、内部構造。気がつけば僕は夢中になってセレイナさんの説明を聞いていた。
途中、なんか重いと思ったらユウラがよりかかってきている。
「その子、寝てるわね」
「ええと、しょうがないなぁ。少し寝かせてあげよう」
ユウラをゆっくりと寝かそうとすると、いきなり抱きついてきた!
だけど寝てる?
「リオ……」
「ユ、ユウラ……もしかして寝言?」
「あーらあらぁ。クスクス……」
さすがに恥ずかしいしドキドキしてきた。今度こそそっと離してから床に寝かせることに成功する。いやぁ、ビックリしたなぁ。
「じゃ、じゃあ続きを……」」
「ふーん……」
「どうしたんですか?」
「いえ、別にぃ」
なんかニヤニヤしてちょっと気になるな。
それより魔道具だ。魔石生成室に移動して、さっそく設計図を書いてみた。
「うん。いいんじゃない? あなたやっぱり天才よ。魔道具職人としてもやっていけるくらいのね」
「や、やめてくださいよ……」
「じゃあ、これでトライね」
話を聞いたところ、部品を魔石で生成して作れそう。
本来なら部品まで魔石で作られているなんて本来はあり得ない。コストがかかりすぎる。でも僕の魔石術なら――。
「生成、断魔石」
外装のパーツを生成した。
【火耐性】【冷耐性】がある魔石だ。動力源の火魔石と冷魔石の熱や冷気に耐えられるようにするために必要だった。
【火】【冷】を始めとしたあらゆる属性耐性を持つ魔石を贅沢に使っちゃう。
外装、ネジ、導線、動力源になる魔石。すべて生成しなきゃいけないからかなり大変だ。
特に導線にする魔石選びは慎重に考えないといけない。
「生成、流魔石」
迷ったけどこの魔石にした。
断魔石とは違って、こっちは魔力伝導率が異様に高い。それに【速さアップ】の効果がついてる。
取り扱いを間違えると大怪我するからこれも慎重に加工して、と。なんだか楽しくなってきたぞ。
「これはこうして、と……次は……」
「リオ君。キッチン借りていい? 適当に軽食でも作ってあげる」
「そこまでしてくれるんですか?」
「しちゃうから言ってるのよ」
とか聞きながら、すでに何かを焼く音が聞こえてきた。こっちはこっちで地道に作っていこう。
溶接作業の必要がないように、すべての部品をはめこむだけで組み立てられる。
もしこれが成功したら集落の人達にも作ってあげたい。
* * *
「で、できた……」
「わぉ! ホントに完成させちゃったの!?」
教えた張本人が一番驚いてるような?
手ごろな大きさだし、温度調整なんかもできるはず。後は動くかどうかなんだけど。
「えいっ!」
「ちょ! 勝手に動かさないでくださ……」
通風口から冷たい風が出てきた。見ると冷房のスイッチを入れたみたいだ。
しばらくドキドキしていたけど、室内が涼しくなってきた。これは冷房のほうは成功、なのかな?
「すっごーい! 上出来天才素敵!」
「ハ、ハハ……。初めてなのにちゃんと作れた……信じられないよ」
「だからリオ君は天才なのよ。こう見えても私、人を見る目だけはあるからね」
「そーなんだ……」
そうは見えないけど言わないでおこう。次は暖房だ。こっちも成功してほしい、お願い!
「……暖かいわねー」
「これで寒い冬でも安心だ!」
僕が魔道具を作ったなんて信じられない。
魔石術でこんなものを作ろうなんて発想がなかったし、セレイナさんのおかげだ。
ただの酔っ払いだと思ってたけど、実は名のある魔術師かもしれない。
「むにゃ……」
「あ、ユウラ! 見て! これ冷暖房の魔道具!」
「れいだんぼー?」
「これで夏も冬も安心だよ」
ユウラがまじまじと冷暖房を見て、それからセレイナさんに視線を移した。
手を振って応えるセレイナさんだけど、ユウラはどこか訝しんでいる。そして今度は突然、手を握ってきた。
「ユ、ユウラ?」
「うん」
うん。意味がわからない。ユウラは僕と手をつないだままセレイナさんから目を離さなかった。
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