ラップ現象

『ダン!ダンダン!』

「…またか…」

 大川は毎晩この奇怪な音に悩まされていた。

 心霊現象と呼ばれるものの一つで、ラップ現象というらしい。誰もいないはずの部屋などから音が発生し、鳴り響くというものだ。

 売れないミュージシャンの大川が、曲を作ろうとしてギターを弾き始めると、それをうるさいと言わんばかりに、途端にラップ音が激しく鳴り響き妨害するのだ。

「あ~!何なんだよ!ちきしょう!俺に何の恨みがあるっつーんだよ!来週のライブは大手レコード会社の人が見に来るから、最高の曲を仕上げなきゃならないのに!」

 大川は引っ越しをしているほど経済的に余裕もなく、ストレスが溜まる中、ただひたすら耐えていくしかなかった。

『チャラララ~♪』

 スマートフォンが鳴り電話に出ると、バンドメンバーの京介だった。

「京介か、どうした?」

「どうしたじゃねぇよ!曲は出来たのかよ?」

「まだだ」

「まだ?お前何週間待たせんだよ!来週は俺たちの未来がかかってんだぞ!」

「分かってるっつーんだよ!もうちょい待ってろや!ボケ!」

 大川は電話を切ると、壁にスマートフォンを投げつけた。

「あ~!イライラする!俺だって早く曲作って納得いくまで練習してぇよ!全部この音のせいなんだよ!………まあ、こんなこと言っててもどうしようもないな…やるしかない…」

 大川は覚悟を決め、ギターを取り出し弾き始めた。

『ダン!ダンダン!』

 それと同時に、いつものように奇怪な音も鳴り始めた。

「やっぱり鳴ったか…でも今日は負けねぇ!集中しろ!集中!ギターだけに集中するんだ!」

 大川は奇怪な音が鳴り響く中、ギターを弾き続けた。

『ギャンギャンギャン』

『ダン!ダンダン!』

 しばらくすると、大川はいつの間にか自分のギターの音と奇怪な音が、絶妙なハーモニーを奏でていることに気付く。

「…なんだ…俺とセッションしたかったのか…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る