THE ZOON

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第1話


「弱小事務所はこうやって仕事を取るしかないんだよ。わかるよね?」


「はい」


「うん、じゃあ今日も大切なメンバーのために仕事取ってきて!」


「はい。わかってます」


そう言って微笑んだ青年は、目の前の男に一礼して部屋を後にした。


先程とは一変して無表情のまま薄暗い廊下を歩く。

事務所前に停めてある車の後部座席に乗り込み、左耳に指を添えた。彼は考え事をしている時左耳を触る癖があった。


(あれ...?)


いつも指先に感じる感触がないことに気がつくが、特に気にした様子でもない。




「着きました。2時間後にまたここで」


運転手にそう言われた青年は、「よろしくお願いします」とだけ言って車を降りた。

美しい装飾が施されたロビーには目もくれず、目的の階へと向かう。

指定された部屋の前に立ち呼吸を整えて、いつもしているように不自然なほど口角を上げた。


ベルを鳴らせばすぐにドアが開く。

中から出てきた男は気味の悪い笑みを浮かべ青年の腰を抱いた。


「待ってたよ...」


「あはは、嬉しいな〜。 今夜もかわいがってくださいね...?」


青年は腰に当てがわれた手に自分の手を重ねて、挑発的に笑った。


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