私的感情辞典読解

いとう縁凛

第1話 愛情

 道の角に立った英子は、曲がり角の先を何度も確認する。

(来た!)

 まるで彼を輝かせるように太陽が照らす道を歩くのは、英子の想い人の圭だ。鞄から鏡を取り出し、髪が乱れていないかを確認する。声変わりして低くなった圭の話し声が近づいてきた。また鏡で乱れてもいない髪を直し、鞄に鏡をしまう。そして曲がり角からゆっくりと、圭にばれないように位置を確認。偶然笑顔を目撃できて、思わず身を隠す。そして口元が緩むまま英子が笑みを浮かべていると、すぐそこまで圭が近づいてきた。

 英子は破裂しそうなほどドキドキしている心臓を押さえ、何度も深呼吸をする。

(今日こそ、伝えるんだ)

 圭が、英子がいる角の横を通り過ぎていく。

(や、やっぱりダメだ)

 圭の隣には、圭の親友の真がいる。二人は幼なじみでいつも一緒だ。そして、もう1人。

「おっはよ!」

 バシッと出会い頭に圭の背中を叩いたのは、学年で一、ニを争う人気者のゆうだ。圭もゆうをよく見つめている。気さくなゆうは、男女で接し方を変えない。才色兼備で、圭が好きになるのもよくわかった。

 英子は、そんな風に一途にゆうを見つめていた圭を好きになった。その輝く目で見つめられたら。その、熱っぽい目で名前を呼ばれたら。そんな妄想するぐらい、ずっと圭を見つめていた。

 ゆうがキョロキョロと周囲を見回す。そして英子を見て手を振った。

「英子! そんなところにいないで一緒に行こうよ!」

 ゆうが英子を呼び、圭が振り向く。ゆうがいないと認識されない。

 英子はゆうが嫌いだ。ゆうを嫌う自分は、醜くて大嫌いだ。


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