第14話 犯人候補
唐突に、心愛はそう言った。なんの脈絡もない発言だった。
「本当に⁉︎」
「うん。」
クルッとスカートを翻して、心愛はやっとこっちを向く。右手には僕の手を、左手にはあのペンダントを持って。
「Mr.Xは、類だよ。」
「はい?」
「Mr.Xは、類だよ。」
「いや違う、聞き取れなかったわけじゃないから。」
だって僕はここにいて、彼女もそれを知っていて。最初に消したはずの説を、心愛は正しいとそう言うのだ。
「父親が実の息子を間違えるわけないって言ったのはあなたでしょ?」
「言ったけど…じゃあ、僕はなんだって言うんだよ?」
心愛の言うことは確かに正しい。死んだのが僕なら、全ての辻褄が合うのだから。
「だって、おかしいじゃない。この骨は確かに類のものだし。それにあなた気づいてる?類のお父さん、あなたのこと一回も「類」って名前で呼ばなかったの。」
「あ…。」
確かに、そうだった。親父はいつだって僕のことを「お前」と呼んだ。息子じゃないと、気づいていたから。
「じゃあ、僕は何者なんだ?」
「決まってるじゃない。他に可能性なんかないんだから…。」
苦しそうに、「類」の骨の入ったネックレスを握りしめて心愛は言う。
「あなたは、AI。きっと類の記憶を移したんだよ。…その鉄のように固くて冷たい体は最新のクローン技術の物だと思う。」
「僕がAI?」
心愛は何を言っているんだ?そんな、漫画みたいな話があるわけ無いじゃないか。そうツッコミを入れようとして、心愛の真面目な顔に気がついた。彼女は、いつだって真剣だった。
「他の人なら気がつかないよ…。それでもさ、私は心愛だよ?類の幼馴染だよ?それで私の知識から考えたら、それしかないから…。」
突拍子もない話かもしれない。それでも、なぜかそうなんじゃないかと思わされた。だって、他でもない心愛がそう言っているんだから。
僕には心愛との記憶が無かった。僕には味覚がなかった。僕には心臓の鼓動がなかった。
それは普通じゃないことは分かっていた。心愛が間違っていたとしても、僕はとにかく普通じゃない。
「ねえ、私の罪を教えてあげる。」
心愛は笑ってそう言う。人は皆、自分の都合の悪いことを言うときは辛そうにするから、その笑顔は少し怖くって。
「明日、私の家に来て。伏線なら、ずっと前から張ってたんだから。」
自分の口に手を当てて、心愛はニヤッと笑う。僕は彼女のこんなにかっこよくて魅惑的な、そんなミステリアスなところを見たことがなかった。
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