第9話 アリーシア


「アリーシア様!! 驚いたじゃないですか!!」


 反応をみせたのはエメだった。


「おや、驚きましたかね? 早く使徒様にお目に掛かりたいと思いましたが中々来られないので僕から迎えに来たんですよ。 そもそも僕から行こうとは思ってましたけどね」


 エメも少し驚いてはいるが私程ではない。アリーシアだけはご機嫌にニコニコ。


「いや〜さすが使徒様。貴方様のお側はとても心地がいい……。そろそろ使徒様のお声をお聞きしたいのですが……」


 私がポカンとしたまま動かないでいると、いつの間にかアリーシアは私の手を取り手をさわさわと触っている。


 その事実にハッと現実に戻る私。


「あのー、手を離してもらえます?」


 とりあえず私の手を解放して欲しい。


「おっと失礼。 心地良いもので」


 ニッコリと笑っているが初めましてで手をさわさわと触る神経は理解できない。


 でも、不思議と害はないと本能で感じる。


 私は目の前でニコニコしている人を観察する。身長は高くひょろっとしている。長い足元まで伸びる新緑色の髪に金色の瞳。そして褐色の肌。全てがバランスが取れていて見惚れてしまうほどの外見。


 先程言っていた、世界樹の精に相応しい見た目だった。


 アマネは気を取り直して挨拶をする。


「初めまして、私はアマネ。ウーラノス様からこの世界に招待されました。まだこの世界に来たばかりだから色々と教えてくれるとありがたいわ」


「使徒様のお役に立てるなら何なりと……。僕は世界樹なのでこの世界が始まりの時よりの知識がございますゆえ存分にお使いください」


 アリーシアは胸に手を置き深々とお辞儀をする。


「ありがとう。 それと私のことはアマネって呼んで」


「貴方様のお名前を呼んでよろしいのですね! ああ! ありがとうございます、アマネ様」


「……本当は様もいらないんだけど」


 引き攣った表情をしてしまう私。そんな様子の私をくすりと笑って微笑ましそうにエメは言う。


「アマネ様、唯一の神であるウーラノス様の使徒様ですもの。様はつけて当たり前ですよ」


 私は前世の感覚から様付けに違和感を拭えないけどエメが言う通りここは諦めた方がいいかもしれないと思った。


「アマネ様! さあ僕になんでも聞いてください! 疑問に思うことは僕が答えましょう!」


 キラキラと期待を込めた目で私を見るアリーシア。


「じゃあ早速聞くね」


「はい! 何なりと!!」


「アリーシアは男?女?どっち?」


「……」


 エメは聞きたいことはそこなの?と声には出さなかったけどそう思った。


 アリーシアもまさか自分の性別を一番最初に聞かれるとは思わなかった。それにアマネは、先程自分の尻尾について驚いていたからてっきりそちらの方を聞かれるのではと思っていた。


 一方私は自分の尻尾のことはアリーシアが登場した時点で忘れている。


 なんとも予想外の質問だか、アリーシアは答える。


「僕に性別はありません。性別という概念がないというかもしれませんね。まあ、生き物に合わせると男であり女でもありますね」


「ほう……」


 つまり、どっちでもあるということ。だから中性的な容姿であり、名前は女性のようであっても一人称は『僕』というのだろうか。とアマネは一人納得する。


 世界樹という存在なのだからそういう別次元の常識だよねとも思う。


「なら、エメは女性の見た目をしているけど木の精は性別とかはあるの?」


 木つながりで次に思いついた疑問。


「おお! エメと言う名を付けてもらったのだな! 君はラッキーだね」


「はい! アマネ様から名付けてもらった大切な名です!!」


 エメという名をアマネが付けたことに今気づいたアリーシア。そのことにテンションが上がっているアリーシアとエメ。きゃっきゃと嬉しそうにしている。


 そこを切り替えてエメは私の疑問に答える。


「アマネ様、私達の場合も人間ような男女という概念はありません。ただ見た目はどちらかをとっているだけです。私は女性の見た目を気に入っているだけですよ。もちろん男性の姿の木の精もいます」


「へぇそうなんだ〜」


「私達は本体が樹ですからね」


「それなら、木の精はどうやって生まれるの? 木が大樹になったら木の精になれるの?」


 これにはアリーシアが答えた。


「木が大樹に成長したからと言ってすべてが木の精になれるわけではありません。木の精になれるのはここ、聖域の場所に生まれた木のみなのです」


「なら、その木は自然に生えるの?」


 アリーシアはニッコリと微笑ましそうにアマネを見た。アリーシアにとってはこの世界に来たばかりのアマネは小さい子供のように見えている。もちろん、尊い存在だと認識し、敬うことも忘れてはいない。


 ただ、どうして?どうして?と質問する子供に今は見えてしまうのだ。


「ここに存在する木の精は僕の子供のようなものなのです。僕の力を受け継ぐ樹達だけが木の精へとなるのです」


「うん?」


「そして愛し合う二人の木の精が愛の結晶として新しい木の精を生み出すのです」


 つまり……人間と同じ!?


 驚く私。そして、話の思考を読むかのようにアリーシアは付け足す。


「愛の結晶と言っても人間のようではございません。二人の木の精の力を合わせて苗木を生み出すのです。とは言ってもここ何百年も新しい木の精は誕生してませんが。まあ、愛し合うとか言いましたけど有事の際は二人さえいれば新しい木の精を誕生させることができます」


 要するに、普通の木ではダメで、ちゃんと木の精の力を持って生まれた苗木が木の精になるってことね。


 ふむふむ勉強になった!と私は一人納得する。


「アマネ様、他にも何か聞きたいことがございますか?」


 アリーシアは再び私に聞く。私はうーん……と考えた。


 そういえば、何か聞きたいことがあったような……?なんだっけなー?


 思い出せないことに少しモヤモヤとする……。そんな気持ちが知らず知らずのうちに出てしまったところがあった。


 ふり〜ふり〜。


 うん?何か背中で動いている。そして視界をかする白いもふもふのやつ……。


 ……あっ!!


 ――私は一気に思い出した。


 

 

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