第8話 私の家


 私は目の前に広がる光景に釘付けになった。


 その光景はとてもこの世のものとは思えない程に美しい景色だった。


 開けたこの場所はとてつもなく広い。高い草はなく誰もいないはずなのにとても綺麗に整えられた芝生の様。所々に花が咲いている。


 その奥に見えているのはキラキラと光る水面の湖。その湖はそこが見える程に透明で透き通っている。綺麗なブルー。


 そして一際目につくもの。それは立派なお城。宮殿の様な建物まである。お城も宮殿も真っ白で装飾はゴールドやシルバーで統一されている。まさに聖域にふさわしい建物。


「すごい……」


「お気に召しましたか?」


 エメは楽しそうに私に問いかけた。


「ええ、すごく綺麗で……」


「それは良かったです! みんなで整えた甲斐がありました!!」


「えっ!? エメ達がこの場所を作ったの!?!?」


 私は驚きを隠せない。


「ええ。 元々この場所は開けた場所で美しいところだったんです。 それをウーラノス様から使徒様がこちらの聖域にお住まいになると聞いたのでみんなで張り切って作っちゃいました!」


 わぁお! まさかエメ達があのお城や宮殿を作ったとは思わなかった。




「それにここはアリーシア様の場所からも近いですしね! アリーシア様のところにはすごく大きい滝があるんですよ!」


 だからか、先程から水が流れる音が聞こえるのは……。


「だけどほんと良かったです!! これからアマネ様はこちらに住んでいただく予定なので気に入らなかったらまた作り直すところでした!!」


 私はその言葉にギョッとする。


 もしかして私が気に入らないと言ったら大変なことになっていたのでは……?


 引き攣りそうになる顔をなんとか我慢して極めて笑顔で言う。


「すっごく! とても! 気に入ったから大丈夫だよ!!」


 そもそも誰がこんな素晴らしい建築物を気に入らないというのか。大抵の人は気にいるに決まっている!私はそんな気持ちだった。


 エメは私が気に入ってくれたことに『るんるん♪』状態だ。鼻歌まで歌ってる。なんの歌かは分からないけど、愉快なメロディーだ。


「ふふーん♪ふふーん♪」


 エメは一人、自分の世界に入ってしまった。ご機嫌なのはいいことだけどほったらかしにされるのは、どうしたらいいか分からなくなるからやめて欲しい……。


 だけど、せっかくいい気分なのにそれに茶々を入れるのも憚れる。


 私はエメがこちらに戻ってくるまでここで休んでようと思った。


 私はふかふかそうな芝生に大の字になって寝転んでみたくなった。そんな経験中々前世では出来なかったから。


 少しドキドキとしながら寝転んでみる。自然の香りが胸いっぱいに香る。そしてふかふかのクッションに包まれている様な感覚だ……。


 ……ふかふかのクッション??


 いくらなんでも芝生はそんなに柔らかくはない。


 えっ?自分の感覚がおかしくなったのかな?いや間違ってなんてない。だってお尻から下はそんなに柔らかくないもん。というか左右の視界にチラッと映っているこの白っぽいものはなんだろうか……?


 私は起き上がって確認してみる。視線を私の背中の方へと向ける。ふわふわの白いものは数えると9個。そしてその白いものは辿っていくとどうやら私のお尻の上、尾骶骨のところから生えてる。


 ……そう生えてるのだ。


 ……。


 ………………。


 ………………………………。


「え、え、え、エメーーーーーー!!!!」


 私はエメに助けを求めた。


 私の叫び声が森へと響き渡った。エメは自分の世界から強制的に現実へと戻された。


「わあっ!! アマネ様! ど、どうしたんですか!?」


 エメも私の突然の叫びに驚いている。そしてすぐに私の側へと来てくれた。


「エメ! これ! 私の!」


 私は自分の尻尾らしきものを持ちながら動揺を隠せず、オロオロと単語でエメに説明を求める。


 エメは何故私が尻尾を掴んで驚いているのか、分からなかったようだが答えてくれた。


「はい、アマネ様の立派な尻尾です」


「そそそそ、そうなの!!!! な、な、な、なんで!?!?」


 エメは不思議そうに首を傾げる。


「なんでと言われましても……。 アマネ様は最初からそのお姿でしたよ?」


「!?!?!?!?」


 私は驚きを隠せない。確かにウーラノス様は姿に関しては不便がない様にとか言っていたけどまさか尻尾が生えるなんて思わないじゃないか!と。これが不便がない容姿なのか!?と思う。


 それに尻尾はなんと9本もあるではないか!!尻尾があるだけでも驚きなのにまさかの9本!!何故9本なのか!?すごくすごく鏡が見たい……!!


 これは早々にウーラノス様に説明してもらいたい!!


 早速エメに鏡があるのか聞こうと思った私だったがそれは叶わなかった。


 なぜならエメの隣にふわっと突然男の人の様な女の人の様な中性的な人が現れたからだ。彼?彼女?はふんわりと笑みを浮かべてまるで騎士が挨拶をする様に私に挨拶をした。


「はじめまして、使徒様。 僕はアリーシア。この世界で世界樹と呼ばれるもの。そして、ウーラノス様から貴方様にこの世界の知識などお教えするようにとのことで参りました。ウーラノス様は現在、使徒様を降臨なされたことで大変お忙しい様で後々ウーラノス様とお話しできるかと思いますが貴方様の今の疑問は僕が答えさせていただきます」


 私はポカンとアリーシアの自己紹介を聞いていた。


 話し方からすると男性のようだと思った。しかし、名前が女性のような気もするとも思った。


 ――私は静かに混乱していた。



 

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