第6話 降臨(笑)しました


 そして話は現実に戻る。


「……おい、ここはどこじゃーい!!!!」


 と思わず叫んでしまったが、ここが何処かはうすうす気づいている。


「はぁ、叫んでも仕方がないよね……。確かウーラノス様は聖域とかに降ろすって言っていたけど」


 私はくるりも周囲を見渡す。どこを見ても生い茂る緑。確かに鬱蒼とした森的な感じではなく、澄んだ空気が美味しいキラキラと輝く明るい森。


「うーん、普通に綺麗な森だけど……」


 確かに綺麗な森で聖域って言われればそうなのかもしれない。……だけど、こんな森のど真ん中に降ろすかってんだ!! 今森のどこら辺なのかも分からんわ!!


 と、心の中で怒っていた。


 落ち着くために美味しい空気を吸う。そして吐く。それを何回か繰り返すと段々落ち着いてきた。


 やっぱりマイナスイオンは凄いなとしみじみ思う。


 少し癒された私は再び冷静に周囲を観察することにした。


 樹齢何千年経ってるのかという程に大きな樹々。これだけでもファンタジーの世界って感じがする……。


 私は厳かな雰囲気の樹を見つめ視線を上へ上へと向けていく。どこまでも高い樹は優しく広がっており太陽の光を妨げていない。こんなに大きな樹なのに光を妨げてないことに私は不思議に思った。


 ここは手付かずの森のはずなのに明るいな……。私のイメージでは森も管理しないといけないって感じだったからな〜。それとなんかこの樹々達は何かこう……生命を感じる気がする。


 そんなことを思いつつアマネは一本の樹に近づく。そして樹に抱きついた。


 地球の感覚としては御神木って言われる程の樹だからご利益にあやかる気持ちで……。


 そんな軽い気持ちで私は樹にピトっと抱きついたまま深呼吸をした。


 すると、樹にくっつけている耳から声が突然聞こえた。


「はわわっ!! 使徒様が私に抱きついている!!」


「!?!?」


 私は突然のことに驚き樹から少し離れた。


 すると、今度は残念そうな声が聞こえてくる。


「あぁ……! 離れてしまったわ……」


「えっ! 誰!?」


 天音が問いかけると樹の中から1人の女性が現れた。目の前に褐色の肌に若葉色の髪と瞳。服装はギリシャ神話に出てきそうな白いワンピースを着ている。そして一番の特徴が足元まであるストレートの髪の毛だろう。とても綺麗な顔をしている。


 私はあんぐりと口を開けながら驚いていた。


「……マジか」


 出てきた言葉はシンプルだった。


「使徒様はじめまして! 私はこの木の精です」


「あっ、はじめまして……」


 これはもしかしてドライアドとかいう精霊か!?それにしても私のこと使徒様って……。


「あの〜、なんで私のこと使徒って……?」


 私の問いに木の精である女性は答えた。


「使徒様がこちらの聖域のどこかに降臨されることはウーラノス様がアリーシア様を通して私達に通達されていました!」


「そっか……」


 ウーラノス様があらかじめ聖域の者達に教えてくれていたってことね。


「じゃあ改めて、私の名前はアマネです。 貴方はなんていう名前なの?」


 私がそう問いかけると木の精である女性は困った顔をした。


「私に名はありません」


「えっ! そうなの?」


「はい……。なんせここには沢山の精霊達がいますし」


「そっか……」


 うーん、名前がないのは不便だな。ここで私が名前を決めてもいいのだろうか?でも待てよ、他にも沢山精霊がいるとか言っていたよね……。後で沢山名づけしろって言われてもな〜。うーん悩む。


 突然難しい顔をし始めた私を見た木の精は戸惑いを見せた。


「し、使徒様? あ、あの、私、何か悪いこと言いました?」


 私は戸惑っている木の精を見る。


 難しい顔のままの私に視線を向けられビクッとする木の精。


 だけど私は木の精の様子にはお構いなしにのんきにこう考えていた。


 ここはこの世界初の出会いとして特別にってことにすれば名をつけてもいいか!


「よし決めた!」


 やっと元の顔に戻り話した私の様子に木の精は少しほっとする。


「使徒様、何をお決めになったのですか?」


 私はニッコリ笑って言った。


「貴方の名前を決めること。どんな名前が良いかな〜」


「えっ!?!?」


 木の精は信じられないというような顔をした。


「私に名前を付けてくれるのですか? 使徒様自ら?」


「ええ、そうよ。 まあ、気に入らないなら拒否してくれてもいいから」


「そそそんな、滅相もない!! とても、とても、嬉しいです!!」


 今度はキラキラとした輝く目で私を見つめる木の精。


 その視線に少しのプレッシャーを感じる。


 なんかすごく期待されているよね……。わぁプレッシャーだわ。


 しばし悩む……。


 木の精は今か今かと待っている。


 うーん、ここはやっぱり髪の色とか瞳の色から考えるか。彼女の髪と瞳は綺麗な緑色。緑色といえばグリーン……いや違うな。翡翠? うーんピンとこない。エメラルド? これも……最初の文字だけとる?


 ……エメ。エメちゃん。これはこれで可愛い名前じゃないかな?これでいいかな?


 とりあえず私はダメ元で言ってみることにした。


「貴方の名前エメなんてどうかしら? エメラルドっていう宝石からとった名前なんだけど……」


「エメ……」


 木の精は体をプルプルと振るわせ始めた。


 その様子を見て私はやっぱりダメだったかと思った。


「やっぱ気に入らなかったかー。ごめん、今はまた考え直……」


「いえ!! とーっても気に入りました!!」


 興奮気味に叫んだ木の精に私は驚いた。


 驚く私をそのままに、名をつけてもらった木の精はキラキラと輝いていた。




 



 

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