第一章 はじまり

第1話 出会い


 この世界の人々から神に逢える場所とされている山脈に1人の女の人が突然舞い降りた。


「……」


 女の人は瞳を閉じている。


 ゆっくりと地面に近づいて行き足が地面に着いた。


 すると、女の人は静かに瞳を開けた。


「……ここがアズフェールか」


 静かにそう言うと周りを見渡す。


 見渡す限り豊かな緑、緑、緑……。


「……おい、ここはどこじゃーい!!!!」


 山に女の人の声だけが響いた。







◆◆◆


 ――遡ること数時間前。


 見渡す限り花々がどこまでも咲いているお花畑。


 私は1人そこに佇んでいた。


「……ここは?」


 しかも、さっきまで家のベッドで寝ていたはずなのに……。これは最近よく見ていた夢か? それにしても何故か現実味があるような気もする。


 不思議な感覚に首を傾げていると、後ろから突然声がする。


「やあ! やっといい返事をもらえたから早速連れて来ちゃいました!!」


 元気の良い大きい声が聞こえて少しビクッとしてしまった。


 すぐに後ろを振り向くとニコニコと笑う男性が1人いた。


「ようこそ!! アズフェールへ!!」


 爽やかに笑う男性は、全てが美しかった……。キラキラと輝く白銀の髪に金色の瞳。スラリとした体型に190センチはあるであろう身長。服装は真っ白いスーツを着ている。


 誰の目から見ても間違いなくイケメンと答える男性だった。


 だけど、私には胡散臭く見えた。


「……はあ?」


 思わず眉間に皺を寄せてしまう。


 そんな私の様子に目の前の男性はポカンと動きが止まった。


 しばしお互いが目を合わせたまま動かないでいると、我に返ったように男性が話し出す。


「えっと、覚えていないのですか?」


「覚えてないのって言われてもねぇ……」


「ええ!! そんなぁ……!!」


 焦ったように次々と男性は話す。


「光間天音さん、僕は君に何回も会いに行きスカウトしてたんです!! 何回も断れ続けたけど諦めないでスカウトしてたらついさっきやっといいって返事をくれたじゃないですか!! それに地球の神様にも許可を取って連れてきたこと覚えていないんですか!?」


「あっ!」


 フラッシュバックのように次々と思い出した。そしてあちゃーとおでこに手を当てる。


 やばい、あの時すごいお酒飲んでいたような気がするわ……。夢だからと思って酔っ払ったノリで返事をした様な……。


 私は光間天音みつまあまね。普通に働くOLだった。仕事は可もなく不可もなしって感じでまあ生活の為に働いているようなものだった。そんな平凡だけど平和だった生活が終わりを迎えた。仕事で上司が大きなミスをした。これはヤバめだな〜なんて呑気に思っていたら何を思ったのかその上司は私がそのミスをしたとなすりつけてきたのだ! いやーすごく頭にきたね。すぐさま抗議したけどさらに上の人からは冷たい目で見られるし、マジ最悪だったわ。とりあえずこの件については調べ次第処分を下すと言われてそれまで休んでていいってさ! それって事実上の謹慎ってことじゃないの! 私は何もしてないのに!! それでやけ酒をしていた訳。 今思い出しても腹立つ!! マジあの上司禿げろ!!


 ちょっと心の怒りが蘇ってきたきたけど、その後に目の前にいる男性……神様と名乗る人が現れたんだよねー。あの日、事実上の謹慎を言われた後に家で1人やけ酒していた。


 そんな私の目の前に来て勧誘してきたのだ。『そんなに悔しいのならちゃんと仕返ししてあげるから僕の世界に来てくれません?』などと、言われた気がする……


 その時は酔っていたし夢だと思っていたからノリで『いいよ、行ってあげるよ! だからちゃんと仕返ししてよねー!』的なことを言ってベッドへ向かって寝たね……。


 ……いや、あれが現実に起こった事だと普通思わないよね? だって目の前に突然人が現れるんだよ? お酒飲んでるから夢だと思い込むよね?


 ワタシマチガッテナイヨ……。


 私が思い出したことを感じた男性は話を続ける。


「思い出したようですね!!」


 目の前の男性は無駄にオーラと瞳をキラキラさせている。


 眩しい!とかやらないからね……。


「ええ……、まあ……」


「良かったぁー。 無理やり連れてきたような感じにならなくて」


 てへっ的な感じで笑って安心してるけど、人がお酒に酔っている時に返事をさせるなんてどうかと思う……。正常な判断ができないと分かっていたならそれは無理やり連れてきたと同じでは?


 思わず半目になる。


 私の視線で男性は少し焦る。


「で、でも! もう連れてきちゃったし、しょうがないですよね!!」


 焦った次は開き直った。


「……はぁー」


 私はそれはそれは大きなため息をひとつ吐いた。


 それを区切りにとりあえず話を進めた。


「それで、貴方は一体誰なんですか?」


「ええ!? 前に自己紹介したのに覚えていない!?」


「記憶にございません」


 男性はとガクッと肩を下ろす。


「……それじゃあもう一度自己紹介しますね。 今度はちゃんと覚えていてくださいね?」


「はい」


 というか、忘れたくても忘れられないよね。


「僕はアズフェールの世界を創造したウーラノスといいます」


「世界を創造? それってつまり……」


「人間が言う神様という存在ですね〜」


 ウーラノスはニッコリ笑う。


 目の前のニッコリしている神様を無視して私は考える。


 別の世界の神様がなんで私に会いに来たのよ……? それに連れてきたって言ってたけど元の世界には帰れるのかしら? あと、これは夢の中? それとも現実?


 色んな疑問が頭の中によぎった。


 そんな考えを見透かすようにウーラノスは話を続けた。


「まず、これは夢ではありませんよ」


 ……現実か。


 思わずため息を吐きそうになるのを我慢する。


「これが現実なら元の世界へは帰ることは……?」


「それはできません」


 やっぱりそうか……。薄々そうだとは思っていましたとも……。


 ガックシしたいのを我慢する。


「すみません……。ですが! 貴方に是非僕の世界に来ていただきたくて!!」


「……なんで私なんですか?」


 そもそもの疑問ね。


「貴方の魂は僕と相性が最高にいいからです!!」


 素晴らしくいい笑顔で言うウーラノス。


 一方ポカンとする天音だった。




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