現実世界が嫌になって自殺した俺が異世界転生してチートスキルで無双することは夢想でしかなかった(仮)
レベルNデス
第一章「シンとアル、その出会い その1」
大学をつつがなく卒業し、幸いなことに早い段階で地方の会社に内定した。
これまでの人生上手くいった試しがほとんど無かったから、このときは未来が輝きで満ちてゆく前兆だと思って期待していたものだ。
しかし、現実は俺にやさしくしてはくれなかった。
配属された部署の上司はステレオタイプな考えの持ち主で、かなりの精神的苦痛を強いられた。
入社したての頃は割と長く続きそうだと思っていた業務も、俺には特筆して秀でたところなんてなかったから、すぐに同僚との差が出来始めて完全にやる気を失ってしまった。
惰性で働きつつ、ストレスの発散のために通っていた公園が無くなるという何とも言いようのない不幸があったのも束の間、母が通り魔に刺されて亡くなるという最悪の不幸も重なり、どうにかなりそうだった。
終いには彼女を作ろうと頑張ってマッチングアプリで出会った女から美人局に遭い、所持金が無になったこともあった。
何もかも上手くいかない。
母親は、もういない。
刻々と悪化していく、今の社会情勢。
もう、死んだ方が楽だった。
将来に対する判然とした不安。
輪廻転生なんか信じちゃいないが、せめてこの苦しみから逃げられるのなら。
ただそれだけを思って、俺は…。
目が覚めた。
自分の部屋で首を吊って息を引き取ったはずなのに?
自分の命を絶つことすら許されないのか…、と自分の悪運を本気で呪いつつ、おもむろに体を起こす。
「あれ?」
首を左右に動かし、今更ながらに違和感に気づく。
見慣れた天井と、壁が無い。
目の前に広がるのは、自分を囲むように生えている木々たち。
視線を落とすと見えるのは、栄養がありそうな濃い色の土とそこかしこに生えている草花。
完全に森の中だった。
ああ、そうか、と俺は今置かれた状況を瞬時に理解した。
俺は完全に逝くことに成功して、どうやら天国へ行くことに成功したようだ。
生前不幸続きというか、あまりにも報われなかったからきっと神様が見かねて天国へ連れて行ってくれたのだろうと、そう思った。
それなら話は簡単だと、のっそりと立ち上がりユートピアへ向かうため森を出ようと歩を進めようとしたその時、後ろでガサガサと茂みが擦れる音がした。
迎えのサービスもあるのか!と意気揚々と物音のした方を振り返ったのだが、そこにいたのはデカめの犬数匹であった。
天国にだって犬くらいいるよな、と思いたかったのだがそいつらの顔をよく見てみると、明らかに牙が鋭い。
しかも、不気味なほどに目も赤いし…。
なんかあの犬たちの周りの空間、異様に歪んでね?
そんな風に呑気に観察していると、気づいたらふくらはぎをかじられていた。
いや、かじられていた、という表現はかわいすぎだ。
犬の牙が、俺のふくらはぎを貫通していた。という表現が正しいいいいいいいいいいいいいてえええええええ!!!
「ぐあぁぁぁ!はなせ、このクソ犬ども!」
痛い。死ぬ?血が出てる…。
すでに脚は言うことを聞かず、無抵抗に尻もちをついてしまう。
あれ、もう脚ないのか?
天国、これで終わり?
無料お試しプランすら、開始してないような気がするんだけど?
突然襲い掛かってきた血気盛んな狂犬たちは、俺の息の根を確実に止めるため上半身に狙いを変えた。
俺の顔面の方に一匹、気づいた時には目の前に現れていた。
ああ、結局俺はこうなのか…。
もういっそ殺してくれ…。ただし、あまり痛くしないでくれよ。
歯医者の治療を受ける直前のときのように、運命を受け入れるように俺はゆっくりと目を閉じる。
痛みは次第に和らいでいき、意識が完全にシャットダウンされていく…。
「だ、大丈夫ですか!?」
最後に聞いたのは焦っているような女の声。
ん?女の……こ………え…?
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