俺の青春が正妻気取りの幼馴染によって壊されてる件

でずな

俺の青春が……

1章 青春イベント

第1話 青春を取り戻してやる

 突然だが、君は幼馴染に青春を壊された経験があるだろうか?

 

 女の子の恋。男の子との恋。 

 同性と夜中まではしゃぐ……。

 想像するだけでわくわくしちゃう。

 と、言うのも、俺はそんな王道青春イベントをしたことがない。

 幼馴染にことごとく壊されているのだ。


 壊されている、と言えばまだ聞こえがいいが、俺の場合は幼馴染が正妻を気取っているせいで壊されている。

 何をするにもみんな幼馴染の顔色をうかがう。

 悪いことをしてないはずなのに、青春らしいことをしようとすると絶対邪魔をしてくるのだ。


 なんで正妻を気取って青春を壊してくるのか、全くわからない。

 

 だから中学生のときはされるがまま。

 青春イベントを一つも送らず、過ごしてきた。

 

 ……が、俺はもうそんなことしない。

 ついこの間、高校生になった。切り替えるには、ちょうどいいタイミング。


 俺は必ず女の子とキャッキャウフフして、最高の高校生活を送ってやるんだ!

 




  ◆  ◆  ◆





 うちの高校は入学式が別日にあり、自己紹介もろもろが翌日になっている。

 なので、今日が勝負の日。


「ふぁ〜……」


 隣であくびをしているのは、全ての元凶である正妻気取りの幼馴染、峰々みねみ由佳ゆか

 

 銀髪ポニーテール。ぱっちり二重。整った顔のパーツ。きれいなボディーライン。

 何も喋らず立ち振舞に気をつければ、誰もが振り返ってしまう。 


 中学生のとき、学校中の男子から告白されたんじゃないかというほど告白を受けていた。

 幼馴染ながら、美少女だと思う。

 ……もし正妻を気取ってなくて、青春を壊してこなければほんの少しそういう目で見てたかもしれない。

 

「?」


 一度でもいいからぽけぇーっとした間抜け面、告白してきた連中に見せてやりたい。


 俺じゃなきゃ絶対別人だと思われるだろうな。


「そ〜いえばたかちゃん。明日から学校にお弁当持っていくことになると思うんだけど、中身なにがいい? やっぱたかちゃんが大好きなからあげかな?」


「ああ。だな」


「おっけぇ〜」


 って、なんで俺は普段通り返事してるんだ!


「もうその手には乗らないぞ」


「へ? なんのこと? もしかしてからあげ嫌いになったの?」


「いやからあげは嫌いになってないけど……」


「もう。紛らわしいこと言わないでよね。お弁当、作ってあげないよ?」


「……ごめん」


「へへっ。わかればいいの」


 って、なんで俺は謝ってるんだ!

 

「由佳。聞いてくれ」


「え、あ、う、うん」


 正面に立ち、肩に両手をおくと由佳の体がビクッと震えた。


 どうやら、これから俺の青春を壊すつもりだったようだ。

 ふふふ。残念だったな。

 由佳の考えてることはお見通しだ。


「俺は由佳と同じクラスになったけど、高校で絶対にキラキラした青春を送る。だから、お互い大人になって頑張ろうな!」


「…………」


 なんで由佳、顔を伏せてるんだろう……。

 もしかしてまだ俺の青春を壊すつもりでいるのか!?


「ゆ、由佳さん。ちょっと冷静になって考えてみてくださいよ。俺たち、中学生のときいつも一緒にいましたよね?」


「だね」


 不思議だ。

 由佳の言葉に重みが増した気がる。


「だから、えっと、その……高校生になったんだから切り替えて、ね?」


「…………」


 変わらず無言で顔を伏せる由佳。


 あれ〜? なんか間違えたこと言ったのかな?


「つまり……最初に言ったけど、俺は高校で青春を送るってこと」


「ふふっ。青春?」


「うん。そう」


「へぇ〜青春。青春ねぇ……」


「わかってくれた? 高校で正妻を気取って青春を壊すようなこと、しないでくれよ」


「気取る、ね」


 なぜか由佳の言葉がグサッと心臓に突き刺さった。

 正妻を気取ってるのは事実。

 だけどなんで俺は……。


「たまに朝食作ってあげてるのになぁ〜」


「いつもありがとうございます」


「この前たかちゃんの洗濯物、干してあげてたのになぁ〜」


「それは勝手にしてたことじゃね?」


 正妻を気取ってもいいだろ、と言いたげな猛アピール。


 こうやって俺の心が折れるのを待ってるのか……。

 はーあ。普段だったらすぐ折れてたけど、今回はガチのガチ。


「過去のともかく、俺は本気だからね」


 由佳は「はぁ〜」と大きく息を吐き、歩き出した。


「わかった。わかったよ。……たかちゃんが言ってるのは、高校で正妻を気取るなってことでしょ?」


「まあ、うん。そうそう」


「なら任せて」


 なんでだろう。

 どう考えても頼もしい言葉なのに不安しかない。


「ちなみに今、どんな悪巧み考えてる?」


「悪巧みなんて、私がそんなことするような人間だと思ってるの?」


「怪しい」 


「ひど!」


 俺は不安が払拭されないまま。

 数人程度しか俺たちのことを知らない高校へ足を進めた。

 




  

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