第3話 ちゅきと言うこと!
こうして、故郷に戻ってきました。
聖王都ブラン。
歩道から、家から屋根から、花壇にある花から全て真っ白な、
全都市の中で
みんな、
小さい子の間では、
「わたしは
と、両手をかざして、はしゃいでいる、無邪気に。
あの無邪気さが、私には痛い……。
そんな街中で、
「
「またこの聖王都に災いが降りかかるぞ!」
「去れ!」
「…………」
オークさんたち以上に歓迎されていない。
災いだって、私が産まれた時に、たまたま大災害が起こっただけなのに……。
「わははは!」
「ふえ?」
オークの王様はいきなり笑い出した。
「清々しいほど
「すいませーん!」
「謝ることはないぞ! わはは!」
「あれオーク王じゃないか!」
「しかも黒髪!」
「黒に黒!」
「この世の終わりだぁ!」
「…………」
確かに王様は目立つ。下はちゃんと黒の
右腕から見え隠れしているドラゴンの刺青とかが怖いんだよー。
「わははは! そんなことで終わるちっぽけな世界なら! 終わればいい! わははは! ほらっ、お前も!」
「わ、わはは?」
「そうだ! わははは!」
「——……」
王様の大きな声で、周りの人の声が薄れて少し軽くなった。
それに二メートル超えの身長と、大きな声で、町の人の視線はみんな王様に集まっている。……もしかして、私を庇うためにわざと?
「うむ! 着いたな!」
王様の「わはは」にホッとしている間に着いたのは、着いた、のは……。
「こ、高級ブランド店『グラスタ』ー!?」
宝石をあしらったドレスや、職人さんの細かいきれいな刺繍が施された貴重な洋服など。
一生! ご縁のないお店!
ダメダメダメ! 私なんかに似合う訳ないし! ドレスにも失礼だ! 怖いけどはっきり言わなきゃ!
勇気を出して王様の手をがしっと握った。
「王様!」
「どうした! 我が妻よ!」
「ダメです無理です! 無理ですダメです! あんな煌びやかなドレス! 私なんかに似合いません!」
「…………」
今度こそ気分を損ねてしまっただろうか……。
「うむ! わかった!」
また否定されなかったー!
「だがしかし! お前にもルールを課す!」
「はひいぃ!?」
私がルールじゃないのー!?
「今をもって! 「私なんか」、“なんか”と、言ったら! その倍! ちゅきと言うこと!」
「ええー!?」
倍!? しかも“ちゅき”!? ……そもそもちゅきって何ー!? 好きの進化系ー!?
「でも……、私なんか、もっと地味な服の方が——」
「はい! ちゅきー!」
「はいぃ!?」
「一回の“なんか”! つまり二回の“ちゅき”だ!」
「…………」
だからっ、意味わかんないんですよー!
「さんはい!」
「ちゅ、ちゅきです、王様……」
——何これー! すごい恥ずかしいよー!
「うむ! 俺もだいちゅきだ!」
声が大きいんですよー! みんなに見られていますってー! 呆れた視線が痛いんですー!
「あともう一回だな! あ! 俺の名はガザムだ!」
え……? 名前を呼んで、「ちゅき」って言えってことー!?
うわー! 大きな体の王様が、キラキラした期待の眼差しで見てるよー! 何でそんな子供みたいに純真な瞳なんですかー!
「ガ、ガザムさん、ちゅ、ちゅきです……」
さっきより恥ずかしいー!
「俺もだいちゅきだー!」
「わかりました! わかりましたから! もう少し声を……」
「そうだ! お前っ名は何という!」
「メ、メヒアですー!」
「メヒア! 良い名だ! 俺はメヒアがだいちゅきだー!」
「わかりましたからー! 叫ばないでー!」
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