競馬女子と一直線

ふり

1・アイス工場での出会い

 なんでここはこんなに暑いんだろう?


 アイスを作る工場だから、空調は結構効いている。そのはずなのだが、動き回っているから汗もかく。長袖のインナーを着てきたものだからなおさらだった。


 仕事内容は、アイスのカップやコーンなどの材料をセットするというもの。なかなか忙しなく、慣れないうちは機械に振り回されて大変だった。


「延沢さん、時間だよ。上がろ」


 ようやく作業に慣れてきたところで声をかけられた。時計を見ると、午後4時50分を過ぎたぐらい。ああ、もう終わりか。


 そういや、不安で昼からの半日にしたんだっけ。作業に着いて行くのに夢中で、あっという間に過ぎていったなぁ。


 声をかけてくれた人は真弥(まや)と名乗った。その真弥さんと雑談をしながら更衣室に向かう。


 着替えながら初めて素顔を見た。パチッとした二重に、黒髪が眉の上で切り揃えられた所謂姫カット。後ろの髪はハーフアップのお団子にしている。……どこかで見覚えがあるような……。


「ちょっと食堂に寄って行かない?」


 更衣室から出てすぐに真弥さんが提案してきた。わたしに断る理由がない。目的はひとつしかない。


 食堂の隅には、宝箱のような存在感を出している業務用の特大の冷凍庫がいくつかあった。そのうちのひとつを開ける。金銀財宝のごとく、ぎっしりアイスが詰まっていた。


「さすがアイス工場。より取り見取りですね」

「持って帰るのはダメだけど、何本でも食べていいってのは太っ腹だよね」


 そういいながら真弥さんは、棒アイスとカップアイスをひとつずつ取った。わたしは夕食のことも考えて棒アイスだけにしておいた。


 空いてる席に座り、向かい合ってアイスを食べる。


 わたしが食べている「モモ王子」は、新後県内でしか食べられない激レア品。夏休みに親戚の家でよく食べた。今も食べるたびにたまらなく懐かしい気持ちになる。


 真弥さんが食べている「ヨーグルバニラ」も新後限定品だ。ヨーグルトの酸味とバニラの甘味が絶妙にマッチしていて、とてもおいしい。わたしも大好きなアイスのひとつだ。


「ところで真弥さんは何をしてるんですか?」


 真弥さんは持参のタンブラーに「モモ王子」を棒ごと突っ込み、割り箸でアイスを砕いている。持って帰る気満々だ。


「まあまあ。これに関しては、暗黙の了解だから大丈夫。みんなやってることだから」


 悪びれもなく言ってのける。まあ、バイト歴2年の真弥さんがそういうならいいんだろう。


 棒に残ったかけらを舐めとり、タンブラーのフタをキツく締めながら立ち上がった。


「いっしょに帰ろ。いいことを教えてあげる♪」


 勝ち誇った笑みを浮かべる真弥さん。それはまるで子どもが友達に自慢するようなそんな感じの笑みだった。

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