起立
陸海は生唾をゴクリと飲み込むと、鼻息を荒くして言った。
「や、やるって何を…?」
「わかってるくせにぃ~」
彼の問いに、浅井はいたずらっぽく笑いながら答えた。
「も…もしかしてめちゃくちゃ楽しいこと?」
「そう、とっても楽しいこと」
陸海は目をギラつかせながら彼女に詰め寄った。
「もしかしてめちゃくちゃ気持ちいいコトォ!?」
「そう、とっても気持ちいいこと」
「やるやるやりますゥ~!すぐにおっぱじめましょ!す・ぐ・に!」
数十分後…。
「ゲッ!また死んだァ~!」
「あはは、陸海ヘタクソ~」
2人はテレビゲームで白熱した戦いを繰り広げていた。陸海は能天気に笑いながらも、その胸中には複雑な思いを抱えていた。
いや楽しいけど…楽しいけど思ってたのとちっが~う!!つーかコレ気持ちいいか?気持ちよくはないだろ。
一区切りついたところで、浅井はコントローラーを床に置くと、陸海に言った。
「あー…なんかこんなに楽しいの久しぶりかも、あたしの友達ゲームとかしないからさ」
「へぇ」
ど…どーせいろんな奴に似たようなこと言ってんだろォ~?そんな言葉でキュンとくると思ったら大間違いだぜ。しっかしやっぱ変な期待なんかするもんじゃ…。
「さ~てゲームも楽しんだし、そろそろ…」
「そろそろ!?そろそろ何ッ!?」
陸海は興奮気味に喰いついた。
「…今日はバイバイしよっか」
「へ?」
彼女の言葉に、陸海は目が点になった。
翌日、陸海は昨日のことで頭がいっぱいで、いつも以上に授業に身が入らなかった。教師の言葉はすべて右から左へ通り抜けて行った。
あの女め、純情な男子高校生の心を弄びやがってェ…!いや待てよ、さすがに興味無い男を普通は家に上げたりしねーよな?やっぱワンチャンあるんじゃあねーか?チクショーまた興奮してきた。
「おい陸海、お前こっち来て問題解いてみろ」
「え゛っ!?」
陸海は思わず部屋中に響き渡る声で叫んだ。彼のオーバーな反応に、教師は怪訝そうに首を捻った。
「何だ世界の終わりみたいな顔しやがって、早く立て」
「いや、もう勃って…」
「あん?何だって?」
「…あ、何でもないっス」
いつまでも煮え切らない陸海に対し、生徒達も痺れを切らしたのか、教室のあちこちからガヤが飛び始めた。それが彼の焦りを更に加速させた。
「おい早く行けよ」
「早くしなさいよー」
「ホラとっとと起立しろ、授業を潰す気か?」
き…起立の前に
「…フッ」
自嘲的な笑みを浮かべ、陸海はゆっくりと立ち上がった。
帰りのホームルームが終わり、生徒達がバタバタと帰宅を始める。そんな中、陸海はただ1人、しょげた様子でいつまでも机に突っ伏していた。
薄井幸は彼の側に寄ると、いつものぶっきらぼうな口調で呟いた。
「起きろ、もう帰りの時間だ」
「…ちょっと待って、あと3秒で元気出すから」
2人組の男子が去り際に彼の方へ向かって叫んだ。
「じゃーなボッキ野郎ー!」
「ひゃあはははは」
陸海は上体を起こすと、彼等に中指を立てた。
「うっせー死ね!苦しんで死ね!」
そう叫んだ直後、すぐ隣で吹き出すような音が聞こえた。振り向くと、薄井が口を押さえて気まずそうにしていた。
「な…何笑ってんだよアンタまでぇ…!」
「笑ってなんか…ブフッ」
「…ムカつくわァ~!」
その時、教室の扉から1人の茶髪の少女がひょっこりと顔を覗かせた。浅井亜那である。
「陸海~今日も一緒に帰ろうぜ~。あれ?ゴメン、お話し中だった?」
彼女の登場に、薄井はやにわにすました顔に戻ると、落ち着いた口調で答えた。
「いや、気にしないでいい。私はもう行く、図書室に用があるからな」
「お、おいサッちゃ…」
薄井は無言で教室から去って行った。
「な…なんか悪いことしちゃったかな、あたし」
「……………」
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