良くない噂
「あ~そこそこ、いい感じ~♡」
「フフ♡ここがいいの?」
「あー…もうちょっと奥の方までいい?」
「こう?」
「おひょっ、キモチィ~♡」
昼休み、殺風景なだだっ広い校舎の屋上で、陸海空は字見花に膝枕されながら、青空の下、恍惚の表情で耳かきを受けていた。誰も2人の邪魔するものはいない、まさしく至福のひとときであった。柔和な笑みを浮かべながら、字見が囁いた。
「次は反対側もしてあげるね♡」
「あっはい~♡」
彼女の足の感触を堪能しつつ、おもむろに寝返りを打ちながら陸海は思った。
…しっかし俺みたいなのがこんなイイ思いしちゃって大丈夫なのかな~?いや、別にバチは当たんねーだろ。ハハハ、ザマーミロ、バンザーイ!
「おっ♡キンモヂ~~♡」
「おい」
その日の放課後、字見のもとへ向かおうと陸海が教室から出た途端、背後から声がかかった。振り返ると、薄井幸がいつもの仏頂面で立っていた。陸海はまた小うるさいことでも言われるのではないかと身構えた。
「な…何だよサッちゃん、俺は今から花とイチャラブしに…」
「お前がどこの誰と付き合おうと…私はどうでもいいが、ひとつだけ大事な話をしてやろうと思ってな」
「大事な話ィ?えーと、ちゃんとゴム付けろとそういう…」
薄井は頭を抱える仕草をしながら、話を続けた。
「…お前、あの女の良くない噂を耳にしてないのか?」
薄井の意味深長な言葉に、陸海は思わず彼女へにじり寄った。
「何よ、良くない噂って…!?まさかヤリマ…」
「まあ聞けよ。少し前に偶然、教室で小耳に挟んだ話だが…以前、あの女の中学時代のクラスメートが、変死体で発見されたらしい。どういう訳か、全身くまなく小さい穴が開いていたそうだ。まるでアイスピックか何かで刺されたみたいにな…」
「全身に穴ァ?それが花とどう関係して…」
陸海の頬を嫌な汗が伝った。
「しかもどうやら1人だけではないらしい…。人数までは分からないが、どういう因果か…全員あの女と交際関係にあったようだ」
「何だよ、まさか花がやったと言いたいのか?」
取り繕ったような笑みを浮かべつつ、陸海は言った。
「違うとは言い切れないだろう」
「まさかぁ…ねーだろ、だってあんな可愛いし…」
「そんなもんは理由にならん、アホ」
彼女の一言が癪に障ったのか、陸海は目に見えて機嫌が悪くなった。
「相変わらず一言余計だなぁ…。アンタまさかヤキモチ妬いて、あることないこと言ってんじゃないでしょうね?」
「な…!?私がお前なんかに嫉妬する訳ないだろ!バカ」
「はい余計な一言その②ぃ~!お前なんかとはなんだ!このオカッパ!」
人目もはばからず、熱い舌戦を繰り広げる二人を遠くで眺めながら、数人の男子達が小声で言った。
「見ろよ、痴情のもつれだぜ」
「ぎゃあははは」
薄井はしばらく陸海と睨みあった後、やにわに取り澄ました表情に戻ると、彼に背を向けて歩き出した。
「フン…もう勝手にしろ、アホらしい」
「勝手にしますゥ~!べろべろばぁ~!」
陸海が舌を出しておどけていると、背後から、うっとりするような甘いフローラルの香りが漂って来た。振り向くと字見の姿がそこにあった。
「お待たせ、一緒に帰ろっか」
「お、おお…」
一瞬、先程の会話が頭をよぎったが、陸海は彼女と帰る事にした。さりげなく首を曲げて後ろを見ると、既に薄井の姿は無かった。
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