ぼーいずどんとだい

ゲロブス

第一章 変身!!!

ぼーいずどんとだい

これは一人の少年の成長物語である…。もう一度言う、絶対に成長物語である…。



「おい陸海ぃ、いつまでブッサイクな寝顔晒してんだよ。帰りのホームルーム終わったぜ」

聞きなれた声に、若白髪の少年、陸海空(むつみそら)は重い瞼を上げた。顔を上げると、陸海の友人である、黒縁眼鏡をかけた冴えない感じの男、鶴木謙(つるぎけん)が、目やにのような何かが付着した濁った眼で、こちらを覗き込んでいた。その背後には、同じく友人である今野未来(こんのみらい)と岡引圭司(おかひきけいじ)もいた。

「あ~オーケー…」

そう呟くと、陸海は欠伸しながら椅子から立ち上がった。

「お前、寝ながら何ニヤけてんだよォ…。夢で巨乳のネエチャンでも出てきたかぁ…?クククッ」

鼻下まで伸びた鬱陶しい前髪を指で弄りながら、今野が言った。

「…ねーよ。お前と一緒にすんな、万年発情期が」

軽口を叩くと、陸海は鶴木達と教室から立ち去った。



その後、図書室で4人揃って椅子に腰かけながら、他愛のない会話をしていると、さっきまで読書に集中していた今野が突然、大声を発した。

「いいなァ~~!俺もこんな可愛い彼女欲しぃなァ~!そんで目の前で他の女とイチャついて、嫉妬に狂った彼女にメッタ刺しにされて殺されてェ~!」

どんな願望だよコイツ、アブノーマル過ぎるだろ。陸海は心の中でツッコんだ。

周囲の生徒達の冷たい視線が4人に向けられる。慌てて鶴木が彼を咎めた。

「バ…バカ、声がでけえよ」

「ケッ!悪かったなァ…。おい岡引ィ~!お前だって彼女の一人位は欲しいだろ…!?どんなのが好みか聞かせろよォ…?」

坊ちゃん狩りで表情の乏しい、寡黙な少年、岡引は間を置いて答えた。

「…国語の吉崎先生」

ちなみ吉崎は60オーバーの、要するに熟女だ。3人は凍り付いた。

「…へ、へェーそうかァ、ふーん…」

「…抜け駆けはするなよ」

誰がするかよ。

「お前はどーなの陸海、好きなタイプとかあるだろ?」

鶴木の質問に陸海は答えに窮し、白髪頭をガリガリとかいた。

「いや別に…普通でいいよ、普通でね…」

「なんだそりゃ、もっと具体的に言えよ、例えばFカップあるとか…」

陸海は机に頬杖をつくと、言った。

「だから『普通』でいいんだって、俺は自分が大した人間じゃないの分かってるからさぁ、モデル並みに可愛い彼女とか期待してもしょうがないっしょ?なるべく何事にも期待しないようにしてんのよ、俺」

いきなり今野が噴き出した。

「出たァ~陸海の卑屈発言~!俺、達観してますよ的なァ~!」

「『期待』さえしなきゃ…お気に入りのバンドの新作がクソだった時も、好きな映画の続編がゴミだった時も、大してショックを受けずに済むんだよ。『期待』してもいいことなんて何も無い、そうだろ?違うか?」

陸海の持論に対して、鶴木は苦笑いしながら言った。

「でもよー、それじゃつまんなくね?何かいいことあるかもって思ってた方が楽しいじゃん」

「悪いけど俺はそんな前向きじゃないんでねぇ~」

陸海がそう吐き捨てると、岡引がポツリと呟いた。

「…変わった奴だな」

お前が言うな、年増好きが。

「…で、俺も答えたんだからお前も答えろよ鶴木」

「へへ、実はよ…」

鶴木は気恥ずかしそうに、顎で前方を指した。

陸海が前を見ると、向かいの座席でおかっぱ頭の少女が本に眼を落していた。

彼女の名は薄井幸(うすいさち)。切れ長の目に、人を寄せ付けない雰囲気を持つクールビューティーだ。いわゆる一匹狼であり、誰かと話しているのを一度も見た事がない。顔だけは無駄に良いんで、一部のマゾッ気のある男子には『あの汚物を見るような眼が堪らない!』と評判だそうだ。

今野が驚きの声を上げた。

「ゲッ!鉄仮面かよ!あんなニコリともしねー奴の何が良いんだァ?絶対マグロだぜアイツゥ…!」

「茶化すな今野、人の好みは千差万別だ」

岡引が彼を戒めた。コイツが言うと説得力あるな。

突然、薄井がこちらの方を見た。

「やべ、コッチ見た…殺されるぞ」

4人は慌てて視線を逸らした。

「眼が合っちまった…たまんねェな」

鶴木はへらへらと笑った。

陸海は横目で薄井の方を一瞥した。彼女はまた読書に取り掛かっていた。

あいつ……何が楽しくて生きてんだ?

……まあ、この俺もな。



その後、しばらくして4人は学校を後にした。

帰り道の住宅街を歩いている最中、鶴木が不意に言った。

「そういやこの近くで出たらしいじゃん、変異者」

3人の顔が少し強張る。

岡引が続けた。

「…ああ、女の変異者らしいな。若い男ばかり狙われて食い殺されている、今もどこかに潜んでいるようだぞ」

「俺も喰われたいぜェ~!性的な意味でェ~!ククッ…」

「お前な~女なら化け物でも構わんの…」

陸海は後ろに振り向いて思わず絶句した。顔に鱗のようなものが出来た長身の女が、大蛇のように裂けた口で、今野の頭の上半分を飲み込んでいた。

そして生々しい音とともに、頭部の上半分を噛み砕いた。

鼻から上を失った今野は、力なく地面に倒れ込んだ。

陸海は愕然としながら言った。

「ホントに喰われちゃったよ…」

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