第33幕 リザベート公演

次の日。

リザベートの街にきて3日目の朝。


昨日の夜はウィルソンとネルソンがホテルに泊まり、シエルとマイルはリーガルたちの帰宅を待つためにお屋敷の3階の寝室を借りた。

アリシアはお菓子作りに夢中になりすぎて、キッチンで寝落ちしてしまったそうだ。

今日の朝にはリーガルが馬車でライアンたちを連れて帰ってくる。

その時間に合わせ、ウィルソンとネルソンはお屋敷に向かうことにした。


「そろそろ来るかなぁ」

玄関前でアリシアがまだ見ぬ仲間の来訪を楽しみに待っている。

「もうすぐ着くと思うよ」

ギーンゴーン…、とチャイムが鳴る。

玄関の扉を開けると見慣れた顔の仲間たちの姿。

ライアン、キース、ライザ、リオン、アイラ、そしてリーガル。

「皆ありがとう、来てくれて…。アイラさんまで来てくれたのはちょっとびっくりしたけど…」

アイラさんは宿舎の飯炊き係の"韓国系黒髪美女"の36歳。

トランプのマジックなら少しできる。

野菜の皮とか無駄に捨てるとレードルでよく頭を叩かれてたな…。

「ウィルソンがこれからお店をするって

聞イタからァ、私もお手伝い出来たらなァと思ッテネ、来たヨ」


「聞いたよウィルソン!すごいお屋敷だねぇ!飲食店ここでやるんでしょ?ちょっと遠いけどぉ、すぐ飛んできていつでも食べに来てあげる!」

リオンはサーカス団の楽器奏者の20歳。

アコーディオンとバイオリンを演奏し、陽気な音楽でお客さんを楽しませる。

今日はバイオリンケースを持って来ているみたいだ。

「リオンちゃんもありがとうね」


「ウィルソンの作る飯は美味い。だから

飲食店をやるのは大賛成だ。頑張れよ!」

ライザは自慢の身体能力をフルに使った中国雑技をパフォーマンスとする27歳。

僕はあまり絡みが少ないけど、親指だけで腕立てをしてるのをよく見かける。

「ライザさんもありがとう」


「ウィルソン~、サンクパレスを離れちゃうなんて俺は寂しいよぉ」

ライアンが悲しそうな声で言う。

「まぁ、そういうなライアン。いつでも会いに来れるんだからさ、なぁウィルソン」

キースがライアンの肩に腕をまわし慰める。

「そうだね、いつでも来て良いんだから…。リーガルもありがとう、皆を呼んで来てくれて」

「なぁに、お安い御用さ」


「すごぉい!こんなにお仲間さんが居るなんて!…私はアリシア•クラーベル、8歳です。

入ったばかりですがよろしくお願いします!」

アリシアが元気に挨拶をする。

「リーガルさんから聞いてるよ。可愛い看板娘が新しく入団したってね。本当に可愛い…。

すりすりしたいぃ!」

リオンがアリシアに抱きついて頬同士を

くっ付けてすりすり…。

「ぉ……おぉ…」

アリシアは嬉しいのか戸惑っているのか複雑な表情をしている。

「みんな、12時からの公演にはまだ時間があるから中でゆっくり休んでよ」

ウィルソンが皆を屋敷の中へ案内する。

____________


「皆さんから慕われているのですね…。すごいです坊っちゃま」

「そう…なのかなぁ」

キッチンでは、リビングで待つ皆に紅茶を用意するウィルソンとマリーが居た。


「えぇ、信頼されている証拠です。アリシアさんもお仲間さま方も…、坊っちゃまの背中を押すために協力してくれようとしています」

「そうだね…。サーカス団の第二支部にするっていう話にまで発展するとは思わなかったけど…」


このお屋敷で父親の借金を返すために、僕はサーカス団を脱退してお店をするっていう話だったのだけれど…。

「坊っちゃまはその期待に応えなくては行けません。旦那様の代わりに借金を完済するのは容易ではありません…。やり切る覚悟はありますか?」

優しく落ち着いた声で話すマリー。

ウィルソンの意志の強さを確認するために、これは避けては通れない会話なのである。

「僕はやり切るよ何年掛かっても。覚悟はある。長いこと離れていたけど…父親を助けてあげたい、息子として」

「そうですか…。私はずっと坊っちゃまの傍におります。いつでも頼ってください」

「ありがとうマリー」

マリーは優しく微笑んで応援してくれた。


自分の父親を助けてあげられない今の僕では、

説得力が無いから。

アリシアに僕の気持ちを話すのはもう少し先になるだろう…。

アリシアの気持ちに応えるために…。

僕がずっとそばでアリシアを守ってあげられるように…。

「アリシアさんには…、ちゃんと言葉で伝えてあげてください…。彼女はずっと待っていますよ」

「え!?ぁ…うん…」

マリーからの急なアリシアについての話に、ウィルソンは顔を赤くして戸惑った。

「ふふ…、お似合いですよ。お二人とも」

アリシアは昨日、マリーと何を話したのだろう…。

ティーポットと人数分のカップをトレーに乗せ、皆の待つリビングに向かった。

___________


時刻は11時40分。

リズワルド楽団が集結したリザベート公演はパレード形式で行われる。

ウィルソンたちが乗ってきた馬車とキースが操縦する馬車の2台でふた手に分かれて、パレードとして練り歩く。

南門ゲートから出発するのは、ウィルソン、シエル、マイル、リーガルが乗りパフォーマンスをする馬車。

一方、北門ゲートから出発する馬車には、キース、ライアン、ライザ、リオンが乗る。

最終目的地はウィンターズのお屋敷。

お屋敷の庭園では来客用の丸テーブルが並べられ、マリー、アイラ、アリシアとウィルソンの母のメリルが手作りのお菓子や紅茶でおもてなしをする。

パレードで街の人々を屋敷に誘導し、メンバーが集結した屋敷の庭園でフィナーレパフォーマンスをするという流れ。

前日の客寄せ及び告知の際、街役場の広報部にお願いをし、広告チラシの配布と放送が行われた。


その甲斐あって、南門ゲートから屋敷まで、北門ゲートから屋敷までの沿道を人々がパレードの始まりを待っている。


「楽しみだけど…すごい緊張するねぇ…」

「私も一度にこんなに大勢のお客様を相手にするのは初めてですが…、頑張りましょうアリシアさん」

アリシアにとってはこのお屋敷が初舞台となる。

庭園のテーブルには子供連れの母親や老夫婦などへのお客様が席を埋め始める

マリーもこのお屋敷の賑わう様子にはびっくりしている。

「私たちも付いてるわよ。頑張りましょうね」

「ウィルソンのタメに-、ガンバルゾ!」

メリルもアイラも協力的で頼もしい。

「うん!頑張るぞー!」

アリシアが大きく背伸びをする。


リズワルド楽団の集大成が今、始まる。















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