第31幕 出迎え
ウィルソン、アリシア、ダグラスの乗せたバスはリザベートに到着した。
「帰ってきたね」
「そうだね」
アリシアとウィルソンは席を立つ。
「父さんは、大丈夫?」
「あぁ…心配ない」
3人はバスを降りた。
バスを降りると警察官が3人バスの出入口で待ち構えていた。
「ダグラス•ウィンターズだな!お前を逃走の罪で連行する!」
警察官の1人がダグラスの腕を掴む。
「ちょっと待ってください!」
ウィルソンが割って入る。
「僕たちはこれからリザベート刑務所に向かいます!必ず連れて行きますから…少し時間をください!」
「ウィルソン…」
「あんたは?」
警察官が聞く。
「ウィルソン•ウィンターズ。ダグラスの息子です!必ず連れて行きます!お願いします!30分だけ時間をください!」
「私からもお願いします!必ず連れて行きますから!」
アリシアも一緒になり警察官にお願いをする。
「解りましたよ…」
逃走を図られないよう、念のため警察官1人がウィルソンたちに同行することになった。
時刻は11時25分。
ウィルソンたちはバス停を離れ坂道を登る。
坂道の先にはお屋敷が見える。
「あれがウィルのお家?」
アリシアが前方を指差す。
「うん、そうだよ」
「ここから見てもすごい大きい!」
アリシアは初めて見るお屋敷に目をキラキラさせる。
坂道沿いに並ぶショップには目も暮れず、これから住むことになる屋敷に心踊らせる。
屋敷の正門前にたどり着いた。
「変わっていないな…3年前と…」
ダグラスが庭園の様子を見て言う。
「マリーが今まで1人で手入れをしてくれていたんだね…。ちゃんとお礼言わないとね」
「そうだな…」
屋敷の庭園は、庭木の剪定から玄関まで続く薔薇のアーチまでひとつの花も枯れることなく生き生きと咲いている。
噴水の水も流れ、キラキラしぶきが舞い虹が架かる。
3人は庭園に入り玄関前を歩く。
「素敵なお庭…本当に綺麗…」
「気に入ってくれた?」
「うん!」
ウィルソンは玄関扉脇のインターホンを押す。
ギーンゴーン…、と鈍い音のチャイムが鳴る。
____________
屋敷のキッチンでは…。
ダイニングテーブルに並べられたマリーの手料理が彩りを飾る。
「あっ、お前それ俺の分のキッシュだぞ!」
「ウィルのお菓子作りの先生が作る手料理だぞ?こんな美味しい料理残すなんてもったいないだろ!」
「残してねぇよ!最後に食べようと思って取っておいたんだよ!じゃぁ、俺もフレンチトーストも~らい~」
ネルソンはマイルの皿に乗るフレンチトーストにフォークを突き刺し口に頬張る。
「あっ、お前!」
マイルとネルソンが料理の取り合いをしている。
「あらあら…、おかわりはまだありますから、ゆっくり召し上がってくださいね」
ティーカップに紅茶を注いでいるマリーは2人の様子を眺めて微笑んでいる。
「はーい、ありがとうマリーさん」
「お前食べ過ぎだよ、遠慮しろよ…」
ネルソンがマイルに注意する。
「ふふ…」
マリーは久しぶりの客人の対応が嬉しくて、つい笑顔がこぼれる。
ギーンゴーン…
チャイムが鳴った。
「お客様ですかね?…見て参りますので、ゆっくり召し上がっていてくださいね」
「はーい。いってらっしゃーい」
マイルがマリーに手を振る。
マリーはキッチンを出て玄関に向かう。
「はーい」
マリーが玄関の扉を開けるとウィルソンとアリシアが立っていた。
「あら、坊っちゃま、アリシアさん。お帰りなさ―」
ウィルソンの後ろにダグラスが居ることに気付く。
「旦那様!お久しぶりでごさいます!」
マリーは深々と頭を下げた。
ダグラスがウィルソンの前に出る。
「頭を上げてくれマリー…。私の方こそ…、今まで1人にさせて…すまなかった…」
「いいえ…私はこの屋敷のメイドですから…、当然のことをしたまでですわ…」
ウィルソンの後ろに立つ警察官が「あと15分だ」と時間を急かす。
「マリー。詳しい話は後で話すから…。これから父さんをリザベート刑務所に連れて行かないといけないんだ…」
「そう…ですね…」
「すまないマリー。もうしばらく私は帰って来られないが…」
「大丈夫です。私は旦那様の帰りをずっと待っていますから…。お身体にお気をつけて…」
「ありがとう…マリー」
「おっ!ウィルお帰り~」
玄関奥の廊下からマイルとネルソンが顔を出す。
「ただいまマイル、ネルソン。後で大事な話があるから、ちょっとお屋敷で待っててね」
「お?おぉ…」
ウィルソンは玄関の扉を閉めた。
3人は屋敷の脇道を入り、ダニエルのお墓のある原っぱを通る。
「ただいま…ダニエル…」
ダグラスがダニエルのお墓に手を合わせる。
丘の階段を降り南門ゲートへ向かった。
刑務所入り口の民家の前に警官2人が待ち構えていた。
「お待たせしてすいません」
警官が腕時計で時間を確認する。
「11時51分…。ダグラス•ウィンターズ身柄確保します」
ダグラスの両脇に警官が付く。
建物に入り地下への階段を降りた。
「あ!ウィルソン帰って来たぁ」
メリルは手に持っていたトランプを地面に置き、ウィルソンに近寄る。
「「ぁ…、ウィル……おかえりぃ……」」
留置室の中にいるシエルとリーガルは元気がない。
「ただいま母さん、父さんを連れて来れたよ」
警官に連れられ、ダグラスが階段を降りてきた。
「…メリル……」
「…お帰りなさい…ダグラスさん…。昔と変わり無いようですね…」
アリシアがダグラスの顔を見てニコっと笑う。
ダグラスはアリシアに応え優しい微笑んだ。
「10年ぶりだな…、すまない…、迷惑掛けて…」
「…ウィルソンは…立派に育ってますよ…。私たちの子供です…」
「そう…だな…」
ダグラスが確保されたことを確認し、看守が留置室の鍵を開け、シエルとリーガルを解放する。
「ごめん。遅くなったね…」
ウィルソンは2人に近づく。
「おぉ…あんたのお母さん…、元気過ぎ…。あんたたちが行ってから…、一睡もしないでトランプゲームの相手をしていたわ…」
「え…そんなに…」
「俺っちも…、元マジシャンだなんて教えてちまったもんだから…、2時間…マジックを見せ続けていたぞ…」
「なんか…ごめん…」
「いいわよ…、ちょっと…ホテルで寝てくるわ…」
「俺っちも…」
2人の笑顔は眠気MAXでクマができ、引きつっている…。
シエルとリーガルはとぼとぼと力なく、階段を上がって行った。
「では身柄の引き渡しにご協力、感謝致します」
警官の1人がウィルソンに話す。
「あ、いえ…、約束ですから…」
警官がダグラスを連れ刑務所の奥へ入って行く。
「父さん!」
ウィルソンが叫ぶ。
ダグラスが立ち止まり振り返る。
「必ず…、迎えにくるから…」
「……あぁ…」
ダグラスは小さい応え、頑丈な鉄の扉をくぐる。
バタン、と扉が閉まり、静まりかえる。
「ウィル…大丈夫?」
アリシアがウィルソンの顔を覗き込む。
「うん…大丈夫だよ」
ウィルソンは笑って答えた。
「母さんも…、ありがとう待っててくれて…」
「私は大丈夫よ。無事に帰って来てくれて良かったわ」
「ただいま、おかあさま!」
アリシアがメリルの手を握る。
「ふふ。さぁ、お家に帰りましょう。疲れたでしょ、パンも食べて行ってね」
「わ~い、パン楽しみ!」
階段を上がり、刑務所を後にした。
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