第25幕 小さな勇者
カリーナから借りた鍵の番号は203。
階段を上がったウィルソンとアリシアは、本当にすぐの正面の203のプレートの付いたドアを見つけた。
ドアを開け部屋に入る。
するとすぐさまアリシアがシングルベッドまで走りダイブ!
「はぁ~…ふかふか…」
アリシアは安堵のため息をついた。
ウィルソンも中に入ってきてもう1つのベッドの端に座る。
「カリーナさんと仲良いね…」
アリシアがウィルソンに聞く。
「え?…まぁ、ずっと一緒に居たからね…」
「カリーナさんなんかヤだ…」
「あんなに楽しそうに話してたじゃん…」
「カリーナさんがって言うより、カリーナさんと話してるウィルがイヤだ…」
何かを感じ取ったのかヤキモチを妬いているアリシア。
「そりゃぁ、5年ぶりに会ったから懐かしかったし、昔としゃべり方も変わってなかったから…、ついね…」
「シエルお姉ちゃんとは違う仲良さだった!」
ちょっと興奮して口調が強くなってきた。
アリシアがウィルソンの顔を見る。
ウィルソンは5年前のカリーナにキスされた時のことを思い出ていた。
「……」
ちょっと頬が赤くなったウィルソン。
「もうヤだ!知らない!」
アリシアはベッドから飛び起き部屋から出て行く。
「ちょっと待ってよ!アリシアちゃん!」
ウィルソンはアリシアの後を追いかける。
階段を降りていくアリシアの姿が見えた。
アリシアは走って入り口の自動ドアを開け、外に出た。
「あれ?さっきの…」
フロントに居たカリーナが気づいた。
「ごめんカリーナ!ちょっと出てくる!」
ウィルソンが階段を降りてきた。
「お!なんだケンカか?追いかけろウィルソン」
ウィルソンはカリーナの言葉には反応せず、自動ドアを開け外に出て行った。
「……私の時もそんなふうに追いかけてよ…」
ロビーの柱時計が5時07分を指す。
「………帰ろ…」
_________
「…飛び出して来ちゃったけど、初めてくる街だからわかんない…」
アリシアが道に迷っていた。
バス停の方とは逆の方向に走ってきたのは間違い無いけど…。
「!ぅぐっ」
すると急に腕を掴まれ、手で口を塞がれ路地裏へ連れ込まれた。
まだ朝方、人も歩いて居ない。
アリシアは口を抑えられ、建物の壁に押さえつけられた。
「可愛い女の子だねぇ~。金色の髪ぃ、さらさらだねぇ~、くんくん。シャンプーの良い匂いだ…」
小太りな中年男が鼻息荒く、アリシアの髪の匂いを嗅ぐ。
「……ん…く…」
恐怖で声が出せない。成人男性の腕力に8歳の女の子が敵うわけがない。
アリシアの着ていた黒のTシャツを捲り上げ、脱がされた。男は剥ぎ取ったTシャツを地面に捨てる。
アリシアはキャミソールとパジャマのズボンの姿になった。
「おいしそうだねぇ、味見してもいい?」
「………」
アリシアは震えて涙を流す。
男はズボンのベルトを外し、チャックを下ろす。
ゴツン、と男の肩に石がぶつかる。
「その子から離れろ!」
ウィルソンが男に石を投げつけたのだ。
「っ!んー、んー」
アリシアは声が出せないがウィルソンに叫ぶ。
「あ?なんだお前…」
ウィルソンのYシャツの胸ポケットからリズが飛び出す。
(アリシアから離れろー!)
「リズ!」
リズは素早く男の背中によじ登り、男の耳たぶを噛み千切った。
「うがっ!いってぇ!」
男は耳を抑えた。アリシアから手を離した。
「アリシアちゃんこっちへ!」
アリシアがウィルソンの元へ走る。
「くそネズミやろう!」
男は肩に居たリズを鷲掴みにし、壁に叩きつけた。
キュ、と絞り出したような声をもらし地面に落ちた。
「リズ!」
アリシアが叫ぶ。
「くそ!おぼえてやがれ!」
男が路地裏の奥へ姿を消した。
アリシアとウィルソンはリズの元へ駆け寄る。
「リズ!ごめんね…私のせいで…」
(アリシア…無事か…)
まだ息はある。
「しっかりしろ動物病院連れていくから!」
ウィルソンはリズを両手で掬い上げ、ハンカチで包む。
「…ごめん…なさい…ウィル…」
アリシアが涙を流し謝る。
ウィルソンはアリシアを抱き寄せた。
「良かった…無事で…」
「こわかった…こわかったよぉ」
アリシアもウィルソンをギュッと抱きしめ泣いた。
地面に落ちていた黒のTシャツを拾い、土を払う。
「大丈夫…着れるよ」
アリシアはシエルから貰った黒のTシャツに腕を通す。
アリシアとウィルソンは手を繋ぐ。手の大きさは一回り違うが自然と"恋人繋ぎ"になっていた。
「この時間でも病院は開いているだろうから。もう一回ホテルに戻って場所を聞こう」
「うん」
2人はホテルに戻る。
自動ドアが開いた。
フロントにはカリーナではない、別の女性が立っていた。
「あの、カリーナさんは…」
「奥さまですか?奥さまならついさっきお帰りになりましたが…お知り合いですか?」
「あぁ、いえ。大丈夫です。動物病院の場所を教えていただけますか?」
「動物病院ですか?動物病院ならこのホテルの裏手になります」
「そうですか。ありがとうございます。203号室の部屋を借りた者ですが、お支払いがまだでしたね…」
「203室でしたら、さき程奥さまが"料金は頂かなくて良い"とおっしゃってましたね」
「ぁ…そうなんですね…」
なんかごめんねカリーナ…。
「では…ありがとうございました」
ウィルソンとアリシアはフロントの女性にペコッとお辞儀をし、ホテルを出た。
このホテルの裏にあるという動物病院へ向かう。
ホテルの裏手にある動物病院はログハウス風の建物で、入り口前にウサギやシカの木の彫刻が置いてある。
カーテンは閉まっていない。
入り口のスライドドアに手を伸ばし、中に入る。
「すいません!誰か居ますか!」
ウィルソンが店の奥に声をかける。
スタスタと女性が出てきた。
「は~い、どうなさいましたぁ」
「すいません、シマリス何ですけど…意識がなくて…」
ハンカチに包まれたリズを女性に見せる。
女性はハンカチを広げリズの状態を確認する。
「どれどれ~、痙攣しているみたいねぇ、脳震盪
かしら…。レントゲン撮ってみますので、椅子に掛けてお待ちくださいね」
女性はリズを引き取り、奥へ入って行った。
「大丈夫かなぁリズ…」
ウィルソンのズボンのぎゅっと握るアリシア。
「心配ないよ…待ってよう」
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