第10話 目撃者
「
病院を出た直後、瞳子にスーツ姿の女性が声をかける。段が亡くなったとの一報を受けて、急遽出先から戻って来た刑事の
「どちら様ですか?」
「私は刑事の虎落繭美。私も【FUSCUS】について調べているの。私の知り合いも【FUSCUS】に描かれた絵に酷似した形で亡くなっている」
そう言って、繭美は警察手帳を提示した。繭美が警察関係者だと分かり、瞳子は一先ず警戒を解く。
「知り合いというと?」
「名前は
「……段さんが言っていた通り、本当に【FUSCUS】でたくさんの方が亡くなっているんですね。佐那ちゃんや玖瑠美さんも」
「酷なことを聞くけど、ひょっとしてあなたも【FUSCUS】で自分の死相を見たの?」
警察から事情聴取を受けた際、瞳子は「私もああなるのかな」と、段の死を自分に重ねるような発言をし、直後に体調不良を訴えている。ショックの大きさを考えればそんな発言をしてしまうのも無理はないと、現場の警察官は解釈したようだが、記録として残されたその発言は繭美を大いに引き付けた。取り越し苦労ならそれが一番だったのだが、青ざめた瞳子の表情を見るに、彼女がすでに立派な当事者であることは確定的だった。
「……はい。それが何を意味するのかも、段さんの死で理解しました。佐那ちゃんの通夜の会場で段さんと会って、知っていることを教えてもらうはずだったんですが、こんなことに」
死の運命を背負ってしまった少女に、どんな言葉をかけたらいいのか分からなかった。あまりにも非現実的な現象ゆえに、絶対に救ってみせると強がることも出来ない。
「色々とお話しを聞きたいところだけど、流石に今日はキャパオーバーよね。後日また会えるかな?」
事件の真相を知るため、本音では今すぐにでも情報を聞き出したかったが、傷心の少女にさらなる負担をかけるのは良心が痛む。すでに日も暮れかけているし、一度時間を置いた方が、本人も頭の中が整理出来るだろう。
「分かりました。私も何が起きているのか知りたいです」
「連絡先を交換しておきましょう。何かあればいつでもお姉さんに連絡してね」
少しでも場を和ませようと繭美は笑顔で提案した。関係者間のネットワークの構築は重要だ。
「今から帰りだよね。家族のお迎えは?」
詳しい話しは後日と決めた以上、今日の出来事を掘り返すのは瞳子の負担でしかない。単なる世間話のつもりで繭美は話題を変えたのだが。
「そもそも今日のことは報告してません。うちは家庭環境が少々複雑で、海外在住の父から生活費を振り込んでもらって、今は一人暮らしをしているんです」
思わぬ地雷を踏んでしまった気がして繭美は言葉に詰まった。海外在住の父親が直接迎えに来れないのは仕方がないが、瞳子は人の死を目撃し、幸いにも大事に至らなかったとはいえ、不調を感じて病院で診察まで受けている。それは当然、家族に報告すべき一大事のはずだ。
人様の家庭の事情を詮索するつもりはないが、生活費だけを送ってそこから先は不干渉な、円満とは言い難い親子関係な印象を受ける。辛い思いをした直後に家族を頼れないというのは辛い。
「車だし送っていこうか?」
「お気持ちは嬉しいですが、一人の方が落ち着きそうなのでこのまま電車で帰ります」
「そっか。気を付けてね」
気を利かせたつもりだったが、初対面の刑事と車内に二人きりは確かに息が詰まるだろう。本人が一人を望むなら、これ以上は何も言えない。
「それでは私はこれで失礼します」
「うん。後で顔合わせの日程を連絡するね」
繭美は駅の方向に歩いていく瞳子の背中が見えなくなるまで、手を振って見送った。
「死をばら撒いて何がしたいたのよ【FUSCUS】」
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