第2話
「ゆ、祐平! これ、どうなってるの!?」
隣にいた笑実が怯えた声を上げる。
祐平は声をかけられてようやく隣に笑実が居る事に気が付いた。
「分からない。 確か、フードコートへ入ってそれから――」
そこから先は思い出せなかった。 気が付けば意識を失い、こんな場所で倒れている。
持ち物などを確認すると何か取られたり変な細工をされている感じはしない。
念の為、スマートフォンを取り出すが、圏外で外部に連絡を取る事は不可能だった。
ぐるりと周囲を見回す。 足元を見ると大理石か何かを使っているのかツルリとした感じの綺麗な床。
円状の広い空間で壁には等間隔で松明のような物が並んで光源となっている。
壁はレンガかのようなブロック状の何かが積み上げられたかのような形状だった。
上を見るとかなり高いのか天井は見えずに闇だけが見える。
「ねぇここって何なの?」
「ふざけんな! 何をしやがった!」
「おかあさーん! おかあさーん!」
「誰かー! 誰か居ませんかー! 事件に巻き込まれています!」
ここに連れて来られたのは祐平だけではなかった。
老若男女問わず数十名の人間がそれぞれ困惑の声を上げている。
明らかにこの状況に混乱しているので、同じ境遇なのは間違いなさそうだった。
「祐平、怖い……」
笑実が縋るように祐平の腕を掴むが、この読めない状況に何も言えなかった。
喚き散らす者、泣き叫ぶ者、不安に怯える者、状況を見極めようとする者、スマートフォンで動画を撮影する者と反応は様々だ。 祐平は笑実を安心させる為にも必死に冷静であろうと必死に思考を回す。
まずは状況の整理だ。 現在地は不明。
この空間の規模からかなり大きな建物である事は間違いない。
窓の類が一切存在しないのでそれ以上の判断はできなかった。 スマートフォンの時刻表示を確認すると意識を失ってから十数分程度しか経過していないようだ。
何らかの手段で操作された可能性もあるが、これだけの人数に対してそれだけの仕込みを行う?
考え難い。 だが、数十分の時間でこれだけの人数をここに移動させた?
それとも数名ずつ順番に誘拐して放り込んだ? 他の連中の反応を見ても考え難い。
見た感じ、祐平達と同様についさっき気が付いたといった感じだ。
――さっぱり分からない。
結局、この結論に落ち着いた。
ただ、この状況を作った者が何の目的もなく誘拐する筈がない。
何か目的があるはずだ。 だから、そうかからずに向こうから何らかのアクションが――
『おめでとう。 君達はこの偉大な儀式に選ばれた幸運な者達だ』
不意に見知らぬ声が響く。 音源は反響して分かり辛いが恐らく上。
「何が儀式だふざけんな!」
「家に帰して!」
「顔見せろ! ぶっ殺すぞ!」
威勢の良い者達が反射的に声へと反応するが、祐平は内心で聞こえないから黙れと思っていた。
一部、似たような事を考えている者もおり、叫んでいる者に白けた視線を向けている。
『まぁ、ちょっとしたゲームに参加したと思ってくれればいい。 安心したまえ。 死ぬほど面白い』
さっきから元気に喚き散らしている者達の声に応える気がないのか、そもそも聞こえていないのかは不明だが、謎の声は勝手に話を進める。
『まずはルールを説明する。 一度しか言わないから良く聞き給え。 君達がここから出るにはこの施設の中で条件が満たされるまで生き残る事だ。 その条件なのだが――』
不意に空間の中央に小さな魔法陣のような物が現れ円柱状の光が上に向かって伸びていく。
『――現れた魔法陣は君達にこのゲームに生き残る為の武器を与えてくれる。 一人が乗った時点で起動する。 まだ説明が終わってないから入れはしないがね?』
その証拠に光る円に入ろうとした者が光に阻まれていた。
『その魔法陣に入った者は一冊の本が支給される。 ページのないスカスカの本で銘を
「まさか、取り合って一冊揃えろって事か?」
祐平が小さくそう呟くとそれが聞こえたのか声はそう続ける。
『察しの良い者は気が付いたかもしれないが、全員分を揃えると一冊になる。 完全な魔導書を得た者がこのゲームの勝者となり、大いなる力をその手にする事になるだろう。 あぁ、代表者を決めて皆で持ち寄って一冊にするのも可能ではあるが、受け取った者はランダムで転送され、この設備内を彷徨う事となる。 魔導書は諸君の身を守る為の物でもあるので、譲渡は自由だがよく考えて実行したまえよ』
つまりこれから飛ばされるであろう場所には明確な脅威が存在する事になる。
恐らくその魔導書とやらを使わざるを得ないような何かが。
『移動先でどう立ち回るのかは諸君らの自由だ。 身を隠すも、仲間を求めて彷徨うのも、他者から奪うのもいい。 魔導書のページは多ければ多い程、有利に立ち回れるので、個人的には奪って集める事をお勧めする。 さて、私からの説明は以上だ。 順番に魔導書を受け取り給え。 奮闘を期待するよ?』
それっきり声は途切れる。
何とかいえと文句を言っている者が居たが、返事が返ってくることはなかった。
全員が顔を見合わせるが男が一人、円に入る。 するとその手の中に一冊の本が現れ、掴むと同時にその姿が掻き消えた。
しばらくの間、誰もが沈黙していたが、行かない以外の選択肢はないと判断した者から順番に円へと入って行く。 最初の男と同様に円に入るとその手の中に一冊の本が現れ、手に収まると同時に姿が消える。
カップルらしき二人が同時に入ると反応せず、片方が出ると本が現れて姿が消えた。
どうやら固まって移動する事は不可能のようだ。 時間の経過に伴って諦める者が徐々に現れ、円に入っては本を受け取って消えていく。
「ふ、藤副さん!?」
半分以上が出たところで不意に誰かが近寄ってきた。
振り返ると笑実と同じ高校の制服の男子学生が近寄ってくる。
人数が減った事で笑実の存在に気が付いたようだ。
「
笑実が呟くようにその名前を呼ぶ。
祐平は笑実の口調からあまり好ましい相手ではないと悟り、彼女を背に隠す。
蒲田と呼ばれた男子は祐平を見て若干嫌な顔をするが、すぐに取り繕ったようにへらへらと笑みを浮かべる。
「ど、ども。 俺、その子のクラスメイトなんスよぉ。 いやぁ、知り合いがいて良かったよ」
笑実は祐平の後ろに身を隠す。
祐平は小さく溜息を吐いて、努めて明るく笑って見せる。
碌な相手じゃなさそうだし追い払うかと内心でどうしたものかと考えた。
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