第17話 天音ちゃんの異変?

 俺と天音あまねちゃんは、同時に成績表を広げる。


「「せーのっ!」」


『田中奏斗かなと 29』

『姫野天音 2』


「「……!」」


 お互いの成績を確認して、息を呑む。

 そして次の瞬間、俺は思わずガッツポーズをしていた。


「やったー!」


 さらに、勢いのまま声を上げる。


 三十番以内に入った!

 これで俺の黒歴史公開はなくなったぞ!


 その事が嬉しいのもそうだけど、同じぐらいに努力が報われたのが嬉しかった!


 初めて勉強を頑張ってみてよかった!

 これも、もちろん天音ちゃんが勉強を見てくれたおかげだ!


 そんな天音ちゃんは二番。

 一番は取れなかったみたいだけど、やっぱり天音ちゃんはさすがだなあ。


「天野ちゃんすごいね!」

「……」

「……あ、天音ちゃん?」


 けれど横を振り向いた途端、自分が騒いだ事を少し後悔する。

 なぜなら、視界に入った天音ちゃんの顔は深刻な顔をしていたからだ。


 それどころか、


「……はぁ、はぁ」


 何かに怯え、青ざめた顔をしている天音ちゃん。

 とても良い順位を取ったとは思えない表情だ。


「大丈夫? 何かあった?」

「──!」


 俺が肩を支えたことで気を取り戻したのか、やっと俺の方を向いてくれる天音ちゃん。

 でも、

 

「す、すごいね奏斗君……。本当に三十番以内に入っちゃう、なんて……」


 明らかに様子がおかしい。

 自分の成績は喜ばしいけど、正直それどころではない。


「天音ちゃん。その、大丈夫?」

「え、だ、大丈夫だよ!」

「そんな風には見えないよ」

「……」


 そして。


「じゃ、じゃあこれ、返すね!」

「えっ」


 鞄から取り出して渡されたのは、俺の『妄想ラブコメ小説』。

 

「天音ちゃん。これってどういう──」

「もう使うことは……ないかもしれないから」

「……え?」

「今日は帰るね。付いて来なくて……良いから」


 そう言いながら、たっと小走りで駆けていく天音ちゃん。


「天音ちゃん!」


 天音ちゃんを呼びかけるも、彼女は決して俺の方を振り返ることはなかった。


「……」

 

 追いかけるべき。

 そう心では思っていても、足は動かない。


「天音ちゃん……」


 これで関係は終わり。

 小説を返されたことで、そう言われているような気がしてしまったから──。







「……」


 夕飯後、ベッドに横たわりながらボーッと天井を眺める。


『大丈夫? 俺でよければ相談にのるよ』


 そう送ったメッセージは返ってこない。

 既読はついているのに。


「天音ちゃん……」


 どう見ても様子はおかしかった。

 俺はあの時、駆け出した彼女を引き止めるべきだったのだろうか?


「いや、でも……」


 分からない。

 正直、今はもう自分の黒歴史がどうとかは、どうでもよくなっていた。


 それほどに天音ちゃんが心配だ。


 それに、


「俺の小説……」


 返してもらった『妄想ラブコメ小説』。

 せっかく返してもらったのに、机の上に置かれたそれは、違和感を感じずにはいられない。

 

 あるべき場所はここじゃない。

 そう言いたくなるような違和感だ。


 そんな事を考えていると、通知がくる。


「!」


 急いでスマホを覗くと、相手は天音ちゃんだった。


 しかし、


『田中奏斗。あなたがうちの天音をたぶらかしているのかしら?』


 それが天音ちゃん本人ではないことは、すぐに分かってしまった。

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