第10話 突然の危機!? またも小悪魔な条件

 天音ちゃんに手作り弁当をもらった日の午後。

 授業中。


「……」


 いつものようにぼーっと先生の話を聞いている。

 だが、授業終了直前になって、危機は突然やってきた。


「来週、中間テストがあるからな。しっかり復習しておくように」


 ……あ、ああー!

 もうそんな時期かー!







 帰り道。


「うーん……」


「どうしたのかな、そんなに悩んだ顔をして」


「天音ちゃん……」


 放課後、連絡をくれた天音ちゃんと一緒に帰る。

 天音ちゃんはどうしても目立ってしまうので、みんなが帰る時間帯から少しずらして学校を出てきた。


「いや、中間テストがさ」


「ふーん。そっかあ、奏斗かなと君、勉強苦手だったもんね~?」


「うぐっ」


 いつものいたずらっぽい顔で早速からかってくる天音ちゃん。


「そういう天音ちゃんこそ……って、あ!」


 そうだ、そうだよ。

 なんで忘れていたんだ。

 天音ちゃんは学年一の秀才じゃないか!


「なに?」


「天音ちゃん!」


 俺はガバッと頭を下げる。

 人通りが少ない道を選んでいるので、なりふり構わずだ。


「俺に勉強を教えてください!」


「……ふーん」


 天音ちゃんの返答は渋い。

 彼女も自分の勉強があるから当たり前だ。


「やだ、って言ったら?」


「そこをなんとか!」


 それでも頼まなければ!

 俺は勉強が出来ないんだ!


「じゃあ顔を上げて」


 そうして頭を上げて見た顔の天音ちゃんは、ニヤニヤしていた。


「いいよ」


「え、ほんと!? やった!」


「じゃあ早速、奏斗君の家で勉強する?」


「うん、よろしく!」


 意外にも返事はオッケー。

 もう勝った気でいる俺は、るんるんで帰り道を歩く。


 今回の天音ちゃん、ニヤニヤしていた割に優しかったぞ。

 こんなこともあるのか!

 

「あ、言い忘れたけど」


 と思っていたのに、後ろから嫌な予感のする彼女の声が聞こえる。


「わたしに教わるからには、三十番以内じゃないと許さないから」


「さ、三十番!?」


 うちの学年は二百人。

 二百人の中で三十番となると、かなりの高順位だ。


 しかも、俺の一年最後のテストは……百六十番。

 三十番なんて、夢のまた夢だ。


「ちなみに、達成できなかったら……?」


「んー、あの『妄想ラブコメ小説』を印刷してバラまくとか?」


「え……。じょ、冗談だよね?」


「さあ?」


 ニヤニヤとした口を指で覆う天音ちゃん。

 小悪魔っぷりが、これでもかという程に見える顔だった(可愛いけど)。


「ほらほら、早く奏斗君の家に行かないと勉強遅れちゃうよ?」


「そ、そんなあ~」


 一瞬優しいかと思ったのに。


 上げてから落とす。

 やっぱり天音ちゃんは天音ちゃんだった。





 俺の家に来て、一緒に勉強を始める。

 始めるんだけど……集中できない。


 だって、


「じー」


「天音ちゃん!」


 隣で天音ちゃんが、俺の進み具合をじーっと眺めてくるのだ。

 距離も近いし、肘をちょっとでも上げれば彼女の胸に当たっちゃいそうだ。


「奏斗君って、やっぱり頭悪いんだね」


「こんな状況で集中できる人いないよ!」


「そう?」


「うん、絶対そう」


 いたずらっぽい態度とはいえ、天音ちゃんは天音ちゃん。

 すっごく美少女なんだ。


 それに距離も近くて良い匂いがするし、その綺麗な髪が腕にかかってきてドキドキしてしまう。


「じゃあ、わたしの勉強を見ててよ。同じようにしてさ」


「そういうことなら……」


 いくら天音ちゃんが可愛くてもちょっと悔しい。

 だから俺も、精一杯じーっと眺めてやるぞ。


 天音ちゃん側に移動して、彼女がシャーペンを持った。


「じー」


「……」


 サラサラサラ……。

 一瞬だけ考えた後、天音ちゃんの手は止まらない。


「じー」


 サラサラ、カッ。

 そうしてあっという間に、


「はい、終わり」


「すごすぎるよ……」


 わざわざ【難問】と書かれた問題に手を付けて、さっと問いて見せた。


「ほら、やっぱり君の集中力の問題だね」


「そうなのかなあ……」


 渋々認めつつ、お互いちゃんと勉強に入り始める。


 天音ちゃんは、今までずっと学年一位の成績なんだし、彼女の邪魔になりすぎるのもよくないからね。

 と思ってはいたんだけど。


「ちらっ」


「ちらって、言葉に出すのやめてよ!」


 結局ちょっかいをかけられまくった初日となった。

 三十番以内……不安すぎる。

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