第9話 俺たちの関係って……?

 「俺たちの関係ってなんだと思う?」


 俺は思いを抑えられずについ聞いてしまう。


「……どうしたの急に」


「あ、えと、ごめん」


「ふむふむ、君は何か不満があったと」


「そういうわけでもなくて!」


 うりうり、と人差し指でつっついてくる天音ちゃん。

 いつものいたずらっぽい態度に変わりはない。


「わたしたちの関係、ねえ……」


「!」


 と思えば、天音ちゃんは空の方を向いて少し考える素振りをする。

 彼女が俺たちの関係をどう思っているか、俺は知りたい。


 だけど天音ちゃんは、いつものいたずらっぽい顔でニヤっと笑った。


「さあ?」


「え、ええっ!?」


 回答は、まさかの

 まるでいつもの態度と変わらず、内面を見せない天音ちゃん。


「さあ、って……何かないの?」


 俺の聞き返した言葉には、一層口角を上げて小悪魔な顔を見せる天音ちゃん。


「ふーん。君は、何か関係が欲しいんだ?」


「え、えと、それは……」


 正直そこまでは考えてなかった。

 けど、自分の気持ち的にはそうなのかもしれない。


「そっかあ。じゃあさ」


「!?」


 天音ちゃんは俺の肩に両手をそっと添え、その手の上に顔を乗せる。

 今までで一番近い距離だ……!


「わたしたち、付き合っちゃう?」


「──! んなあっ!」


 突然の刺激的過ぎる言葉と、耳の近くでささやかれる声に限界に俺は達し、咄嗟とっさに天音ちゃんから離れてしまう。


「あら」


 つ、つつ、付き合うだってー!?

 俺が、あの、天音ちゃんと!?


「そんなに驚くことかなぁ」


「そ、そりゃあ驚くよ!」


「へえ? あんなことまでしておいて?」


「ええっ!?」


 あんなことって、一体どういうことなんだ。

 思い当たる節はない……わけではないな。


 お家デートに水族館デート、おまけに手も繋いで回ったわけだし。


 今にしたってそう。

 屋上で二人っきりで女の子の作ったお弁当を食べる、状況だけ考えるなら正直カップル以外の何者でもない。


「で、どうなの? 付き合うの? 付き合わないの?」


「そ、それは……」


 その質問、そしてその表情に完全に動揺する。

 正直、男として考えるなら一択だ。

 

 友達も恋人もいたことない冴えない陰キャ男が、クラスの人気者に「付き合う?」と迫られている。

 こんな事、この後の人生でもあるかなんて分からない。


「つ、付き合……」


「んー?」


 けど、俺の童心なのか小心者なのか、中々言葉に出せない。

 心から「好き」と想ったことはまだない天音ちゃんに対して、いい加減な気持ちで言葉を出せない。


 こういうところで戸惑ってしまうのが、モテる奴とモテない奴の違いなんだろう。

 だから俺は!


「付き合いた──」


「冗談」


「え……えっ?」


 下を向いたままでも、やっと言葉にしようとしたのに天音ちゃんにさえぎられる。

 顔を上げて見た天音ちゃんの顔は、口元を抑えてニマニマしていた。


「本当に付き合うって思った?」


「だ、だって……」


「あらら、可愛いねえ」


「うっ」


 そう言いながら、人差し指でほっぺたをちょんと押される。

 

「今はまだ、ね」


「えっ? それってどういう……」


「いいからほら、口を開けて。はい、あーん」


「え、ちょっと……あむ」


 真面目な話の中で、天音ちゃんは唐突に『あーん』をしてくる。


 天音ちゃんの弁当に最後に残っていた唐揚げ。

 つまり天音ちゃんの箸というわけだ。


 これって……間接キスというやつか!?


「さ、食べ終わったなら片付けて。わたしが持って行くから」


「あ、まってよ!」


 間接キスの衝撃と天音ちゃんの急な態度の変化で、話が途切れてしまう。


 意味深な言葉を残したまま、弁当を片付けた天音ちゃんは、屋上の扉付近までさっさと行ってしまった。

 

「じゃあまた。お昼楽しかったよ~」


「天音ちゃん!」


 バタン。

 屋上の扉が閉まり、天音ちゃんは行ってしまった。


「な、なんだったんだ一体……」


 天音ちゃんの本心は、今日も見えなかった。







<天音視点>


 バタン。

 屋上の扉を閉めて、扉に少し寄りかかる。


 それにしても、“わたしたちの関係”かあ……。


「そんなの、わたしも分かんないよ」


 急にそんなことを聞いて来るから、正直びっくりした。

 なんとか取り繕ったけど、動揺してたのバレてないかな……。

 

 カッ、カッ。


「!」


 後ろから奏斗かなと君が歩いて来る音が聞こえて、急いでその場を離れる。


 今の、熱くて赤い顔。

 こんなの見せられたものじゃないから……!

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