第27話 おじゃま~
なんだかんだで10日たち、一刀の身体を完全に回復した。
ほとんど寝たきりと言うより、簀巻きにされた日々だったような気がするが、そこは気にしてはいけない。
というか、絶対後で楓と艶魅に何かしらの仕返しをしてやる。
そんな事を思いながら、一刀はここを出ていくための準備をしていた。
「もう大丈夫そうですね! 良くなってよかったです!」
「おぉ?・・・おはよう眞銀。眞銀はいつも元気じゃのぉ。うむうむ、なんとも愛いのぉ」
「朝からうせぇ。神薙であるなら、もうちっと清楚であれっての」
「神薙は神様を降ろせることの意味ですよ? 清楚とは関係ないと思います!」
「眞銀は器量よしの清楚なお嬢様ぞ? 一刀は見る目が無いのではないか?」
朝からホントにうるせぇ。
女が三人いないのに、なんでこうも騒がしいのだ。
女三人寄らなくとも姦しいではないか。
「ご飯できてますよ! 今日こそ一緒に食べましょう!」
「誰が好き好んでテメェ等なんぞと食うか」
「これ一刀! せっかく眞銀が誘ってくれとると言うのにその言い草はなんじゃ! 断るにしてももうちっと言葉を選ばぬかっ!」
相も変わらずな一刀の言い草に、艶魅が叱りつけるが、艶魅の声などどこ吹く風であり、一刀はまとめていた荷物を背負い道場を後にしようと眞銀が立つ入口へと進みだした。
ビクッ!
ある一定の距離に近づくと眞銀の肩が小さく跳ねる。
前回一刀に向けられた、女としての恐怖が未だに忘れられないのだろう。
「眞銀や。無理せず下がってはどうかの?」
「え、えへへ。何言っているんですか神木神様! 何も無理なんてしてないですよ~! えへへ、ねぇ一刀さん! 一度くらいみんなでご飯食べましょうよ。ご飯は一人で食べるより絶対美味しいですから!」
艶魅が気を利かせるも、眞銀は自ら一刀と距離を取ろうとはしない。
それがお家のためにと言う責任感からなのか、それとも本心から一刀と仲良くなりたいと願っているのかわからないが、そんなこと一刀は気にならず、眞銀の立つ入口に近づく。
笑みが少し強張るも、眞銀はその場にとどまり続け、笑みを絶やさずにただ冷汗を流した。
「・・・・一刀止まってくりゃれ。これ以上は見ておれぬ」
一刀が倒れてから眞銀は一人で一刀に会いに来たことが無かった。
いつもは楓が傍にいてくれたおかげでそれほど恐怖なかったが、やはり一人で会うのはまだ怖いのだろう。
どうにも女として味わった恐怖を思い出されてしまい、本能が一刀を恐れるようになったようだ。
「随分と過保護だな。まあいい。俺も流石に小便チビってるガキを虐める趣味はねぇしな」
「も、もう、何言っているんですか。朝から下品ですよ!」
二人っきり、厳密に言えば二人と幽霊一人だが、物理的な戦闘能力の無い艶魅では眞銀は安心できないのだろう。
言霊で支配する能力があるとはいえ、それでも見た目幼女ではちょっと頼りないだろうし。
「まっ、俺としては好都合だ。そのまま俺を恐れ、嫌いになってくれや」
そうなれば俺の子を産みたいなどと思う訳もないだろうし、そのままお役目が嫌になって神月家から出て行ってもらえれば幸いだ。
眞銀自身には怨みを抱いてないからな。
一刀は眞銀がいる入り口に向かわず、一段高い所に設置してある窓を開けるとそこから出て行こうとした。
「一応礼を言っておく。世話になった」
「一応とはなんじゃ! 一応とは! 献身的に世話させられといて、その言い草は失礼以外のなにものでもないぞっ!」
「うせぇな。コイツ等はこいつ等で俺を利用する為に勝手に助けただけだろ。礼を言うだけマシだと思え」
しかもこの俺が神月家に礼を述べるとか、普通はあり得ねぇからな。
次期当主とは言え、あのことに関わっていないだろうから普通に接することが出来ているだけだとして、神月家の奴に礼を述べるのはすげぇことなんだぞ。
つうか、関わって無ければ、話すことさえも、名前を呼ぶことさえも許しはしない。
そんな一刀の考えなど知らぬ艶魅は毎度のことながら、お小言を発し、一刀も毎度のことながら、聞き流しながら道場の外に出る。
「あ、まって!」
引き止める眞銀の声が聞こえてはいたが、それに従う一刀では無く、その場をさっさと後にした。
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