第9話~ジュピター~




*⋆꒰ঌ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ໒꒱⋆*


「キメラとか施設とか、エンディの話は難しすぎて、私にはさっぱりわからないわ……」


ルナは戸惑いの表情を浮かべながら、施設だという、この緑溢れる大好きな森を改めて見渡しました。


「そんなに怖がらないで?怖がらせる為に話をしたわけじゃないんだ」


「わかっているわ。私もそんなつもりじゃないんだけど、この大好きな森がなんだか、怖く思えてしまって。兎に角、エンディがとても物知りなのはわかった。少し羨ましいな」


「本当に?じゃあ、尚更に、俺の星に行こうよ?ね!ルナ!」


エンディはルナの両手を握りしめると、上下に激しく揺さ振り始めました。そしてルナはされるがままに、困惑の苦笑をひとつしたのでした。


「正直、行ってみたい気持ちはあるけれど……私の小さな2枚羽では、そんなに飛び続けたりは出来ないもの。エンディだって、もうケンタウロスじゃないわ。そもそも、ここから飛びたつ方法がないでしょう?」


ルナは、あしらう様な悲しい微笑みをエンディに向けたあと、クリーム色の空を静かに見上げました。


あの空の向こう側に拡がる【宇宙】という存在。ルナはその拡がりを抱きしめてみたいと少し思いました。


いつも任務で、画面越しでしか触れる事の出来ない他国の世界。その世界を、自分のこの皮膚で直接、温度を感じてみたいとそう思いました。


「行ける方法ならあるよ。でなきゃ、話をしたりしない。俺の故郷はね、アースの近くの星なんだ」


「アースなら……シャドに聞いた事があるわ!でも確か、ここからはとても遠かったはずよ?星の名前は何て言うの?」


「ジュピター」


「ジュピター…………?」


ルナは初めて聞く名前のはずなのに、何故か胸の奥から溢れてくる、正体不明の懐かしい感情に襲われ始めていました。



「ルナと一緒じゃなかったのか、マリア」


唐突に背後から話しかけられたマリアは、宮殿の中に流れる小川の中に浸していた手を強ばらせると、ゆっくりと振り向きました。


「えっと……カイネと一緒じゃない?私、カイネに聞いてくる!」


「待ちなさい、聞きにいかずともいい。私こそ今まで、カイネと一緒にいた所なのだから」


ホワイトは、マリアのしどろもどろの表情から全てを悟ると、宮殿の外へと向かって歩き始めました。


「あなた、まさか森に行く気なの?」


声と共に音もなくホワイトの前にパキラが現れたかと思うと、ホワイトに向かって小首をかしげて微笑みかけました。


「ルナを迎えに行くだけだ。そこを通しなさいパキラ」


「ルナ、ルナ、ルナ。あなたは口を開けばルナの事ばかり。ルナは死の包括者、心配等がそもそも無用な存在でしょうに。それとも?そんなに自分がルナにした事を、悔いていらっしゃるのかしら」


パキラの冷たい問いに、ホワイトは答える事はせず、更に宮殿の外へと向かい始めました。


「行ってはいけないわ!ルナの【ベース】が危険な存在なのは、ホワイト……誰よりもあなたがわかっている事でしょう!?ルナは最初から生み出してはいけなかった!葬る事が出来ないなら、離れるしか術はないのに!」


パキラの悲痛な叫び声が宮殿に響き渡り、重々しい空気が空感を覆い尽くしました。


「言われなくともわかっている。だが、それを施すとしてもそこには必ず秩序が伴う。それに、私はルナを生み出した責任がある。私しかこの星を護る事は出来ないのだから」


そんなふたりの切羽詰まった重いやり取りを遮るかの様に、兵士が慌てながら転がる様に走りやってきました。


「申し上げます!ジュピターより入電!至急、ホワイト様とのコンタクトを取りたいとの事にございます!」


ホワイトは眉間をピクリとだけ動かすと、森の方角を暫く見つめました。


「まぁいい……こちらにも考えがある」


ホワイトはくるりと向きを変えると、小川の中のマリアを抱きかかえました。


「怖がらせてすまなかった。さぁ……マリアの出番だ」


「ジュピターかぁ~上手く出来るかわからないけど、ここは第4夫人のマリア様に任せて🎶」


マリアはホワイトにしっかりしがみついたまま、満面の笑顔でそう言いました。


その光景を見送りながら、パキラは大きなため息をつくと、一瞬で青い鳥に変身し、森の方へと羽ばたいていったのでした。


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