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校内新聞の記事として、わが領地のことを紹介してもらったが、大した反応も聞こえてこなかった。
「うう~~、悔しいですわ。私の力不足です」
「いや、これはこれで課題がよくわかった」
やはり記事というものは、元々その分野に興味がある人が読むものである。そうでない人に読ませるには、大きく興味を惹くだけのインパクトが必要だ。
興味がない人にも目を止めやすいもの。興味を持っていなかった人に気づかせるもの、それらが必要だと感じた。
ロニー・クインシーの絵が完成し、それが市民展に出品された。その絵を見に行こうとセアラ嬢に誘われる。
ならば、私が迎えに行こうと提案していると、もう一人一緒に見に行く人がいると聞かされる。
「やあ、若い二人に邪魔して悪いね」
「いえ……」
もう一人とは、セアラ嬢の父ロードリック伯爵であった。
ロードリック伯爵はにこやかに笑い、穏やかに話す優しげな男性だった。
そのロードリック伯爵にまじまじと顔を見られる。
「お顔立ちは父君に似ておられるが、髪や目の色は母君譲りだね」
「父と母のことをご存知ですか」
「私は君のご両親とは同じ学年でね。ご両親は私のことなど覚えてらっしゃらないだろうが、お二人は有名だったからね」
「そうなんですか」
父と母は在学中に騒動を起こしているので、有名なのはわかっていた。だが、同学年だという人と出会うことはまったく想定していなかった。
両親は疎まれていると思っていたので、こうしてにこやかに話しかけられて、話題のきざはしにされるなど、予測していなかったのだ。
「ご両親はとても人気があったんだよ」
「そうなんですか⁉」
両親は騒動を起こした結果、社交界から遠ざかったと言う。ゆえに、よっぽど嫌われていたのかと思っていたのだが、そうではないらしい。
「父君は武芸に秀でておられるからご令嬢方から黄色い声援を送られていたし、母君は天上の菫と名付けられるほどの美貌だろう。男子学生達の視線を釘付けにされていたよ」
「そうなんですか……」
人気があったと聞いて、ならば自分が今置かれてる状況はやはり自分自身に原因があったのかと少し落ち込む。
己の置かれた状況。
遠巻きの揶揄、孤立、評価されない日々……
いや、こんな時に暗くなってはいけないと気を取り直す。今は一人ではないのだ。
変に黙ったせいで怪訝そうにしている向かいの親子にあいまいに笑って返す。
「すごい! こんな大作だったとは!」
「きれい……!」
ロニー・クインシーの絵画は三枚構成になっていた。それぞれにオスニエル領の風景が描かれている。
一枚は青空の下に花畑が広がり、一枚は頂に雪が残る山とその下に流れる清流の川、一枚は草を食む羊達と草原の景色が描かれていた。そしてそれらが背景でつながりひと繋ぎの景色になっている。
生き生きとした植物の輝き、風を感じさせるようななびいた草花、自然でありながら愛らしさを感じる羊達、美しい山並み、光を感じさせるような雲の影、それらが豊かな筆致で描かれていた。
「君ら、来てたのか」
「ロニー!」
この絵を描いた本人、ロニーが現れた。ここぞとばかりに、セアラ嬢と一緒になってロニーの絵を褒め倒す。
「君らはもう少し貴族的な物言いを学ぶべきだな」
ロニーが呆れたように言う。
「やあ、久しぶりだね。とても素晴らしい絵だね」
「お、お久しぶりです、ロードリック伯」
ロニーにロードリック伯があいさつをして絵を褒めている。ロニーは、私達を相手するのとは打って変わって、恐縮した態度を見せた。
「とても美しい景色だ。私も、この地へ行ってみたいな」
「本当ですか」
行ってみたいと言われて、素直に嬉しいと思う。ロニーは驚いた顔をしている。
「そうだ。父君は元気かな」
「はい。父は元気にしております」
ロニーとは家族ぐるみの付き合いだとセアラ嬢が言っていたか。この後、ロニーとロードリック伯は二人で話すことがあるとのこと。
「二人で他の絵を見ておいで」
ロードリック伯にそう言って送り出される。
「二人でどんな話があるんだろうね」
「ロニーのお父様は私のお父様と幼馴染で同級生だそうですわ」
「そうなんだ」
それから私達は他の絵を見て回った。瑞々しい感性を持つセアラ嬢の絵の感想はおもしろく、一人で見るよりもずっと楽しんで見ることができたのだった。
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