第115話 ぬいぐるみが好き

田舎に住んで良かったことの一つは、買い物に行った先で運命を感じて、ぬいぐるみを次々連れ帰らずに済むということ。


出先のお店で目が合って、「うち来る?」とスカウトしがちな私にとって、街は危険である。

今なんかはそこらじゅうにゆるキャラもいるし、大小様々なぬいぐるみがたくさん売られていて、お財布と居場所(スペース)の心配がなければ、きっと際限なくスカウトして帰ってくると思う。

大学生の頃にかなりスカウトして、今は大きい子たちを実家の妹が引き受けてくれている。

自転車の前かごに入らないぞうのぬいぐるみなんかも連れ帰る、やり手のスカウトマンであった。


田舎では買い物に出かけても、ぬいぐるみを置いているようなお店もブースもなく、心穏やかに過ごしている。


それでも、結婚前にスカウトしてきたぬいぐるみや、夫が私や子どもにとスカウトしてきたぬいぐるみが、他の家庭よりはややたくさんいて、我が家は賑やかなのである。


子どもが体調が悪かったり、ちょっと元気がなかったりしたら、お気に入りのぬいぐるみを布団に入れてあげたり、ぬいぐるみで話しかけたり、小さい子がいるお母さんなら普通にやっていることをやってきていた。


小学生になった子どもが、そろそろ学校から帰宅すると思われる時間に、玄関でぬいぐるみとスタンバイして、玄関チャイムを鳴らした瞬間に


「〇〇ちゃん、お帰り~」と飛び出してみた。



なんと子どもはお友達と一緒に帰ってきていた。

ランドセルを置いたらそのまま遊ぶつもりだったらしい。


しばしの沈黙。




子どもに叱られた。

お友達には笑われた。


恥ずかしかったが、もうこれは突き通すしかないなと腹を括り、


「△△(ぬいぐるみの名前)だよ~。こんにちは~。」と挨拶をしてみた。

錦鯉の長谷川さんくらいの勢いで。



その子は子どもとは仲良しさんのお友達で、次からは

「△△ちゃん、元気ですか?」と聞いてくれるようになった。

優しい。小学生だけれど思いやりのある大人だ。


あれから子どもたちも各自でスカウトしたぬいぐるみが続々と家族入りしている。


プロ野球入りして、寮生活を始める新人選手が、寮に自分のぬいぐるみを堂々と連れてくる様子が最近はニュースになっていたりするが、

「がんばって。応援してるよ。」と思っているオバサンである。同志よ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る