第92話 ある早朝に

その昔、毎週のように家族で釣りに出かけていた。

行先は遠い。車で3時間くらいかかる場所へ。


こちらを出発するのは、早朝も早朝。

深夜ともいう時間帯。

あちらで釣りを始めるのが、日の出時刻を目指しているから

星の輝く時間帯に移動するのだ。


子どもたちは後部座席で眠って、夫婦は二人で声を落として

話ながら目的地まで行く。

コンビニでトイレ休憩をはさむ。


自宅から20-30分ほどの場所を走っていると、濃霧で前方が

見えづらくなった。

慎重に進むと、闇の中に光るものが見えた。



光るものが2つ。

こちらをじっと見ているのがわかって、寒気がした。


霧が少し流れて、その光るものの正体がわかった。



シカ。

シカがこちらを見ていたのだ。

それも一頭だけでなく、もう一頭いた。



夫は「一家で拉致されるかと思って怖かった」と言った。

私は人ではなく見てはいけないものを見てしまったのかと思っていた。


「なーんだ。シカだったのか。怖かったね。」



田舎の闇の中では、何がいるのかわからない。

あまり暗くなくても今はシカやイノシシが山から下りてきて

車とぶつかったという話が増えていて、それもこちらは廃車になるクラスの

大ダメージを負うと聞いて、恐ろしい。

拉致される可能性ももちろんあるだろう。


暗い時間はあまり活動しない方がいいなと思った話である。

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