第11話 静かな暮らし

学生時代は友達が急に一人暮らししている部屋にやってきたりもして、

予想外のことが起こることが多かった。


結婚してからかなりの田舎に住みだすと、周りに誰も知っている人が

いないせいもあって、家族以外の人間と話す機会もないくらいに静かである。


郵便局や宅配業者もだいたい決まった時間に訪問。

ゴミを出しに行く時間もあまり他の人とバッティングしないように

配慮している。


不意にかかってくる電話は迷惑電話ともいわれる営業の電話くらい。

子どもたちが地元の学校へ通っている間は、もう少し他の電話がかかってきたり、

急に訪ねてくる人間もあったりしたけれど。


一人暮らしの高齢者も多い田舎なので、夜間に救急車を呼ぶケースも割とあり、

そろそろ寝ようというタイミングでサイレンを聞くことも多い。

一日に同じ人が何度も呼ぶこともあったり。


救急車が近所に来たなあという翌日、知り合いから電話がかかる。


誰がどうしてその救急車を呼んだのかを知りたいらしい。

救急車が近所に来たところで、当事者でもない我が家が外に出て

どこの家の誰が倒れたのかなど把握する必要はないから、当然のことながら

全くわからない。わからなくていいと思っている。


「え?知りませんよ。どうしてそんなことを知りたいのですか?」


そこまでは、ちょっと遠い親類でもこの地区にいるのかと思っていたが

ただ「知っておかないと自分が恥をかく」と言われた。

サポートすべき親類が倒れたのであれば直接連絡もいくだろうし、

どうしてそういうルートで確かめないのだ?と首を捻っていたのだが

この時ようやくこの方がただの知りたがりの出歯亀さんだとわかった。


こういう人は田舎には多いらしい。

もう少し離れた地区の若いご夫婦が、体調が急変して救急車を呼ぶと

何もしない近所の人がわらわら出てきて、搬送の邪魔になったという

話もしてくれた。


関係ない人間が出ていって邪魔になるのもいけないし、そういう大変な姿を

他人に見られるのも普通にイヤだろうとわかるので、うちは近所に

救急車が来ていても外には出ない。

それが思いやりだと思っていたのだが。


こういう時にわらわら出てくる人は、不確かな情報を後に流す人が

多いから注意しないとならない。


ということで、うちに電話をしてきた方は少し考えた後に、こちらに通話が

できないように番号をブロックすることにした。

救急車が来るたびに気軽に電話されてもかなわないので。


怖い話だが、この方、うちが今何をしているのか、ものすごく興味があるらしく

忘れた頃に我慢ならなくなるようで、直接自宅に突撃してくる。

電話をブロックされている時点で察してくれると期待していたが、そこをこえてくる

あたりが怖い。

共通の知人には、この話以外の話もして、私に興味がなくなるように

私の話題を出さないようにお願いしてある。


田舎は人の出入りも少ないので、一度興味を持たれると執着されがちなのかも

しれない。

ほどよい付き合いを望みたい。




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