第42話
ナガリは剣を持ち上げて高らかに笑う。
「これが俺のスキルだ。幻の十一本目!
『作成』された
「みんな、大丈夫!?」
「これくらい平気よ」
「何ですか、あれ。……本当にシムカちゃんとハクアちゃんとは思えません」
「きっと痛がっているでござる。早く二人を助けに行くでござるよ」
無気力にうなだれる皇帝陛下を無視して歩き出したナガリが
「肩慣らしにはちょうどいい。かかってこいよ、鞘野郎」
かつて
そんな弱気な僕を叱咤激励するヴィオラの声が脳内に響き、一歩を踏み出して抜刀する。
「
火打ち石の役目を持つ鞘を刀で擦り上げ、火花を散らす。
瞬きを終える頃には光を視認したナガリの頭上に稲妻が落ちているはずだった。
「甘いぜ」
稲妻は
「
風が吹いたタイミングを見計らって刀を薙ぐと劇毒を持つシャボン玉が無数に飛び立ち、風に乗ってナガリへと向かった。
しかし、それらも斥力に阻まれナガリの皮膚には届かない。
「スミワ!」
デュアル直伝の居合い術で
再び距離を取り、
「
僕を含め、ありとあらゆる物質が引き寄せられ、
その中には無重力の中で手足をばたつかせている皇帝陛下の姿もあった。
腰の鞘と刀たちもバラバラになって巻き上がる。
急速に竜巻が縮小し、
爆音と爆炎と爆煙が混ざり合い、どうなったのか分からない。
自分がどこにいるのか、どこを負傷したのか、そもそも生きているのか。何も分からない状態で地面に横たわっていた。
「なんて威力だ」
全身は
黒煙が晴れると僕から離れた場所で皇帝陛下が気絶していて、周囲には八人の女の子がボロボロの状態で倒れていた。
「みんなっ!?」
彼女たちの服は所々が破れ、髪は焦げている。息はしているのに目を開ける気配がなかった。
「僕を守ってくれたのか!?」
抱き起こしても僅かに瞼を動かすだけで返事はない
ナガリは横たわる皇帝陛下の前に立ち、興味なさげに一突きする。
抵抗もなく剣が皇帝陛下の体に入り、内部で小規模な爆発が起こった。
「これで俺が一番だ」
この弱肉強食の世界を支配していた皇帝陛下が死んだ。
かつて
現時点で一番強いのは幻の十一本目を手に入れたナガリだ。
僕を絶望のどん底に突き落とすように
「これで終わりだ。刀を持たないてめぇに勝ち目はねぇぞ」
ようやく聞こえるようになった耳にナガリの無慈悲な言葉が届く。
戦意喪失ということがどんな状態なのか初めて知った。
一人で戦えっていうのか。
今だって彼女たちに守られたから辛うじて生きているだけで、立ち上がれないほど全身が痛い。
再び
「よくも俺を殺しやがって。お前はただの無能だ。ゼィニクのおっさんは間違ってなかった。俺こそが優秀で最強の勇者なんだよ!」
「無能、か。僕と彼女たちを繋ぎ止めていた鞘もどこかに吹っ飛んで――」
言葉を最後まで言い終えずに彼女の能力を思い出す。
もしも、彼女の能力が今も僕に作用しているとしたらどうだ。
勝ち目があるかもしれない。
でも、作用していなかったら……。これは賭けだ。
歯を食いしばって体を起こし、叫ぶ。
「僕と君たちは永遠に繋がっているんだよな。そうだろ! 来い、
僕の願いに応えるように、納刀された状態の鞘が両腰に十本出現した。
少しの時間を与え、彼女たちの回復を待つ。
さっきまで体が動かなかったのに力が戻ってくるように感じた。
アイシャの能力で強制的に愛を誓わされた僕たちが離れるときは死を意味する。
だから僕は体が動かなかったし、ヴィオラは声を発することもできなかった。
アイシャはやっぱり恐ろしい子だ。
「
左手に持つ鞘を左肩に乗せ、顎を乗せて高く持ち上げるように構える。左手の指で四つある音符の装飾を押えて、視線を右手に移した。
右手に持つ刀の
「ありがとう、ヴィオラ。一緒に練習した技でナガリを倒せそうだよ」
音色を止めるつもりはない。
ナガリの心にヒビが入るまで奏で続けるつもりで指と腕を動かし続けた。
「なんだこの音は!? やめろぉぉぉおぉぉぉ!」
聞いていて嫌な音ではないはずだ。
癒やしの音源を不快に感じるのなら心が悪意に満ちて
「やめろって言ってるだろ!」
耳を押えて、体を丸めていたナガリが再び
それでも僕は指の皮がめくれようが、爪が剥がれようが構わずに手を動かし続けた。
「ぐをぉぉぉぉぉ!?」
「ここは台風の目なんだよ。一番危険に思える所有者の近くだけは一番安全なんだ!」
「
黒雲が空を覆い、勢いづく前の竜巻に向かって稲妻が落ちた。
ドゴォォォォォン!!
膝をついたナガリに向かって何発も落雷を叩き込む。
そして最後に
「
驚くほどに清らかな刀のペン先はナガリの未来を書き換えた。
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