第11回『奪う』:便利な図書館

 学生証を示した女性はペーパーを丹念に辿り時折自端末へと書き付ける。それを幾度も繰り返す。

 制服の少年達は囁き合いつつ小突き合いつつペーパーを囲んでいる。表示は絶版漫画らしい。

「本はどこ? ここは図書館よね」

 司書の私は年配女性へと向き直る。

「本は電子化されました。閲覧用の電子ペーパーにダウンロードするんですよ」

 全収蔵書籍の電子化が完了すると図書館から本が消えた。代わりに国中どこにいても中央と同じ本を読める。

「そうそう、この本……だったかしら。少し記憶違いをしていたみたい」

 書籍はデータで、データの管理は国の仕事だ。知識を歴史を奪い塗り替え改竄するのも。

 女性は気弱な笑みを浮かべる。

 私は曖昧な笑みを返す。

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