第7話 媚薬でピンチ……!

 男達によって、ニハルは無理やり連れていかれて、空いている部屋へと押し込められた。


 突き飛ばされ、ベッドの上に倒される。


「へへへ……たまんねえな、この体」

「兄貴、手を出してもいい、って話でしたよね」

「お仕置き程度ならオーケーとのことだ」

「じゃあ、お仕置きしないと、っすね」


 男達は上着を脱ぎ捨てると、今度はカチャカチャとズボンのベルトを鳴らし始めた。全員裸になり、筋骨隆々とした肉体を見せつけてくる。


 これから自分が何をされるのか、そのことを察したニハルは、怯えた表情で、ベッドの上で後じさりをした。


「い、いや……やめて……!」

「おーおー、その顔、たまんねえな。だけど、やめて、は『やめないで♡』に変わるぜ」


 リーダー格の男が、小瓶を取り出し、その中にあるドロッとした白濁液を、ニハルの顔に向かってベチャッと投げつけた。


「あ……! やあ……! なによ、これ……!」

「ドラゴンの体液から作られた媚薬だよ。肌に触れただけでも、強烈な効果があるぜ」


 男の言うとおり、ニハルの体の奥から、熱いものがこみ上げてきた。


「あん……♡ ん……♡」


 腰をくねらせ、内側から湧き上がる欲求に耐えようとする。バニーガール姿のニハルが見せる、その仕草は、実にエロティックだ。


「あ……はぁ……♡ ずるい……♡ こんなの、使うなんてぇ……♡」


 肌は汗ばみ、目には涙がうっすらと滲み、太ももをモジモジとこすり合わせている。その扇情的な眺めに、欲情しない男などいないだろう。


男達は興奮で目を血走らせている。


「さ、まずは、たっぷり奉仕してもらおうか」


 リーダー格の男が、ベッドの上に乗り、仁王立ちした。


 目の前に、相手の股間がある。ニハルは、嫌悪感を抱きながらも、正常ではない状態のため、思わずゴクリと喉を鳴らした。


 男に向かって、弱々しく、ニハルが手を伸ばしかけた――


その時だった。


 バンッ! と部屋の扉が開かれ、何者かが勢いよく飛び込んできた。


 イスカだ。


「何してるんだ!」


 男達がニハルを襲おうとしているのを見ると、イスカは怒号を上げた。


「な、なんだ、てめえは⁉」

「うわああ! 来るなあ!」


 素っ裸のため、男達は何も抵抗できない。


 あっという間に、四人の男達は、イスカによって叩きのめされてしまった。


「大丈夫⁉ ニハルさん⁉」


 イスカは、ベッドの上でぼんやりしているニハルに近寄り、その両肩に手を置いた。


 途端に、ニハルは、イスカにギュッと抱きついてきた。


「――!」


 自分の胸板に、ニハルの豊かな乳房を押し当てられ、イスカはつい硬直してしまう。


「ぁん……♡ はぁん……♡」


 ニハルは、息が荒い。喘ぎ声も混じっている。明らかに正常ではない。


 いやらしい手つきで、彼女は、イスカの胸板を撫で始めた。それから、震える声で、おねだりをしてくる。


「お願い……イスカ君……いっぱい、して……♡ なんでも、していいから……♡」


 誘惑の言葉に、イスカの平常心はぐらつきそうになったが、ふと横を見ると、まだ意識の残っていた男が、ヨロヨロと立ち上がって、逃げ出す素振りを見せている。


「……ちょっと待ってて、ニハルさん」


 イスカは穏やかな声で、囁くようにニハルに告げると、優しく彼女を引き剥がし、そして、逃げ出そうとしている男に飛びかかると、ドンッ、と床に押し倒した。


「なんでニハルさんを襲った。答えろ」

「い、言えない。それだけは言えない」

「答えろ」


 腕に力を込め、イスカは男の首を締め上げる。


「か……は……オーナーのル、ルドルフさんに……雇われたんだ……!」

「ルドルフ? ここのオーナー? どうして、ニハルさんを襲うんだ!」

「ニ、ニハルは……ルドルフさんに逆らったからな……」

「逆らった?」

「ルドルフさんの女になるのを拒否したんだよ……」


 初めて聞く話に、イスカは頭の中が冷たくなるほどの怒りを覚えた。

 きっと、オーナーという立場を利用して、ニハルに関係を迫ったに違いない。


「それで、なんでお前達がニハルさんを襲うんだ!」

「ルドルフさんに逆らった報復で、俺達をよこしたんだよ……ルドルフさん好みの、従順で、淫乱な女に、調教するように……ってな」

「ふざけんな!」


 カッとなったイスカは、男を力いっぱい殴りつけた。


 その一撃で、男は昏倒してしまった。


 急いでベッドへ戻ったイスカは、すっかり性欲の塊と化しているニハルをなんとかなだめつつ、彼女を連れて、自分の部屋へと引き返した。


 危ないところだった。廊下のほうから妙な物音が聞こえたと思い、外へ出てみれば、なぜかニハルの姿が消えてしまっていた。そのことに不穏なものを感じたイスカは、各部屋を調べて回っていたのだ。


 そして、ニハルが男達に襲われる直前で、なんとか救出に成功したのである。


「これ飲んで、ゆっくり休んで」


 故郷に伝わる、安眠に効くというお茶を、ニハルに飲ませる。多少は解毒効果もあるはずだ。


 ニハルはいまだ喘ぎ声を出しながらも、少し落ち着いたのか、イスカに従ってベッドの中に入り、やがて寝息を立て始めた。


「ルドルフ……なんて奴だ……!」


 イスカは、ニハルへの異常な執着を見せるルドルフに対して、怒りの念を抱いた。


 しかし、ルドルフが仕掛けてきた卑劣な行為は、これだけではなかったのである。

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