幻想世界のバニーガールがスキル「ギャンブル無敗」で思うがままに人生を謳歌する、そんなちょっとエッチな物語

逢巳花堂

第1話 ギャンブル無敗のカジノバニー

 ここはとある幻想世界――


 砂漠のカジノには、バニーガールが大勢いる。


 その中でもエロ客達の間で人気が高いのはニハルであった。


 色黒の肌に、白いバニースーツがよく映えている。ボリュームのある柔らかそうなお尻。動く度にプルプルと揺れるGカップの胸。サラサラと流れる、艶のある金髪も美しい。


「ほお、これが噂の……たまらんですなあ」


 スロットマシーンで遊んでいる中年の小太り商人が、ニタニタと笑いながら、横を通り抜けようとしたニハルのお尻へと、手を伸ばした。


 すかさず、黒服が間に割って入る。


「お客様。バニーへのお触りは禁止です」

「す、すみません」


 黒服に凄まれた小太り商人は、冷や汗を垂らしながら、手を引っ込めた。


 ここはカジノ。ギャンブルを楽しむ場所。娼館ではない。そこの線引きはしっかりとなされている。


 だけど――


「はあああ」


 スロットのフロアから、廊下に出たニハルは、盛大にため息をついた。


 気が重い。


 バニーガールの格好自体は、正直気に入っている。セクシーだし、可愛いし、四六時中バニースーツを着ていたいくらいだ。


 でも、このカジノからは抜け出したい。


 さっきのようなセクハラオヤジは、まだ我慢出来る。


 問題は、ここのオーナーだ。


 これまでに、いったい何人の女の子達が、オーナーに無理やり手籠めにされてきたか、知れたものじゃない。

 さっきまで明るく元気に仕事していた同僚が、オーナーに呼び出された後、打って変わって、沈んだ表情でフロアに出てくるのを見る度に、


(次は私の番……?)


 とニハルは怯えていたものである。


 そして、とうとう自分の番が来た。


「ニハル、オーナーが呼んでいるぞ。すぐ部屋へ行け」


 黒服にそう言われた時は、絶望で目の前が真っ暗になった。


 それでも、このカジノにおいて、オーナーは絶対的権力者だ。王のような存在である。従わざるをえなかった。


 オーナールームへ向かって、廊下を歩いていくと、泣きじゃくっているバニーガールとすれ違った。彼女は、いままさに、オーナーのために「ご奉仕」をさせられたのだろう。


 とうとうオーナールームに入ったニハルは、ごくりと喉を鳴らした。


 豪奢な内装の室内、中央の奥に、玉座のような赤く大きな椅子がある。そこに、オーナーであるルドルフは座っている。

 ちょび髭を生やした中年男性。毎日いいものを食べているからか、腹はでっぷりと出ている。これでも、元々は帝国でも五本指に入る騎士だったというのだから、人は見かけによらない。


「ニハル、呼ばれた理由は、もうわかっているだろう?」


 ついさっき、他のバニーガールを食い物にしたであろうに、もうルドルフはフウフウと興奮で鼻を鳴らしている。精力絶倫、とは聞いているが、まさにその通りの様子だ。


「ご奉仕しろ……ってことですよね」

「いいぞ、わかっているじゃないか。なら、話が早い」


 目を血走らせて、ルドルフはベルトをカチャカチャと鳴らし、ズボンをすぐにでも脱ごうとした。


 うわ、あんなやつの下半身なんて見たくない……とニハルは思いながら、精いっぱいの愛想笑いをニコッと浮かべ、こう言った。


「私と賭けをしませんか」

「賭けぇ?」


 ルドルフは怪訝そうな表情で、ニハルのことをジロジロと見てくる。


「うん、賭け」

「俺はもうその気になっている。悠長に賭けなんてしていられるか」


 私は全然その気じゃないの! と言いたい気持ちを、グッとこらえて、ニハルは愛想笑いを続ける。

 ここに奴隷として連れられてきて、働き始めてから一年間、多くの客達を魅了してきた、ニハルのチャーミングスマイル。その愛くるしい笑みに、ルドルフはますます興奮度を高めたようで、いよいよズボンのボタンを外した。


「いいから、俺の前にひざまずけ。そして、そのプルンと柔らかそうな唇で、丹念に、奉仕するのだ」

「あん……だからぁ、その奉仕についての話ですよぉ」


 ニハルは媚びを売るような色っぽい表情で、胸の谷間を見せつけながら、腰をくねらせた。お尻についたバニーの尻尾がユサユサと揺れる。


「ここに五枚のカジノコインがありまーす」


 胸の谷間に挟んでいたコインを取り出し、ルドルフに見せる。


「これを投げて、一枚でも表が出たら、ルドルフ様の勝ち。そしたら、私、ルドルフ様の専属ペットになります♡ すごくエッチなご奉仕してあげますから♡」


 ゴキュ、とルドルフは唾を飲み込んだ。ニハルの言葉に、魅力を感じているようだ。しかし、すぐに冷静さを取り戻した。


「待て。じゃあ、全部裏が出たら、どうなる?」

「そうしたら……うーん……一週間、お預け、ってところで、どうでしょうか」

「一週間⁉ ふざけるな! そんなに待てるか! 俺は、お前がこのカジノに来た時から目をつけていた! だが、すぐには手を出さなかった! 人気のバニーになると踏んでいたからだ! そして、いま! 人気の高まったお前を屈服させる! その絶好の機会が来たんだぞ!」


 よく喋るなあ、この中年オヤジ……と呆れた思いを抱えながら、こっちも一歩も引けない、とばかりに、ニハルは笑顔でコインを突き出した。


「やん♡ その一週間が、また興奮を高めるじゃないですかあ♡ それに、五枚全部裏なんて、そうそう出ないですよ♡ 確率を考えてみてくださいよぉ♡」


 単純計算で三十二分の一。たったの三パーセント。


「お前がイカサマをするかもしれない」

「だからぁ♡ ルドルフ様が、投げてください♡」


 ニハルはルドルフの汗ばんだ手を握り、流れるような手つきでコインを強引に渡した。


 フン、とルドルフは鼻を鳴らし、手の中で、コインをジャラジャラと鳴らす。


「専属ペットになると、誓ったな。約束は守ってもらうぞ」

「もちろんです♡」

「そら!」


 ルドルフは空中にコインを投げた。


 バラバラに床に落ちたコインは、すぐに表か裏か、ハッキリと答えを示した。


「な⁉ な⁉ なにぃいい⁉」


 驚愕の声を上げるルドルフ。


 五枚のコインは、全て裏面を見せている。


「きゃ♡ 残念♡ ルドルフ様、ついてなかったですね♡」

「ど、ど、どういうことだ⁉ お前、やはり、イカサマを……!」

「投げたのはルドルフ様ですよぉ♡ 私は何もしてません♡」

「もう一度だ! もう一度勝負させろ!」

「だーめ♡ 約束ですよ♡」


 小悪魔じみた笑みを浮かべながら、ニハルは、ルドルフの鼻先を指でチョンと突いた。


 たちまちルドルフは、フニャフニャと力を失い、後ろへとよろめいていくと、椅子に腰かけて、そのまま目を閉じて眠りについてしまった。


「ごめんなさーい♡ 約束は破れないの♡」


 ニハルは、眠っているルドルフに向かって手を振ると、意気揚々とオーナールームを後にした。


 砂漠のカジノに、帝国の奴隷バニーガールとして仕える少女ニハル。

 彼女には、あるスキルが備わっていた。


 それは「ギャンブル無敗」。


 砂漠の女神から授かったこのスキルで、ニハルは難を切り抜けたのである。

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