逆襲のキラーエッジ
Side 楠木 達也
『まさかこんな隠し球が待ち受けていたとは……』
『ど、どうします?』
流石に合体して学校の屋上に届くぐらいに巨大化するのは予想外だった。
まだジェノサイザーやシュタールという強敵が控えているのにこんな想像の範疇を超えた敵を倒さなければならないとは――
「死ねぇええええええええええええええええええ!!」
左手の巨大ベンチがワイヤーと共に射出される。慌てて茂と達也は飛び退いた。
続けて肩と胴体のキャノン砲が乱射される。その攻撃に精確さは無かったが逆にそれが厄介だった。一つ着弾するたびに大音量と共に土煙が上がり、熱い熱風と吹き飛ばされるぐらいの爆風が襲い掛かる。特に胴体の巨大戦車砲から放たれた奴は地面を煮え滾った鍋のようにグツグツと煮えたぎっていた。直撃すればただでは済まないだろう。一発一発がそんなだから達也からしてみればたまったものではなかった。
「ヒャハハハハハ!! このままぶっ潰してやる!!」
高笑いしながらキラーエッジは両脚のキャタピラで前進し、何度も何度もベンチを飛ばしながら迫り来る。
この猛攻に茂も達也もサイバートレーラーも一旦退却せざる終えなかった。隙を見て三者は必至に攻撃を浴びせるがまるでビクともしない。この調子ではジェノサイザーやシュタールと戦う前に激しい消耗を強いられてしまう。それだけは避けたいが敵は此方の攻撃がまるでビクともしないのを良い事に激しく攻め立ててくる。
『デンジダー稲妻嵐!!』
この状況打開すべく、デンジダーが必殺技を放つ。
両腕からバチバチと雷光渦巻く電気の嵐が発生。巨大化したキラーエッジへと直撃する。するとどうだろうか――激しい火花が巻き起こり、数歩程後退する。
続けて達也も攻撃した。
『サイバァアアアアアアアアアアアア!! キィィィィィク!!』
同じくブーツに搭載された高速移動用の電子クラフトを応用し、両脚にプロテクターを装着した必殺の急加速蹴りだ。
決まれば怪人を一撃で倒せる……のだがビクともせず、弾かれてしまう。
『参ったね……ここまで頑丈だとは』
茂の言う通りだった。見掛け倒しではないらしい。
最早全力戦闘しか道は無いのか? まだ倒すべき敵が控えていると言うのに?
――逃げて達也君――
『ッ!?』
咄嗟にサイバーウイングをON。
上空に上がる。
(今の声は一体……)
―逃げて……私の事は良いから……―
(これは薫の声!?)
通信ではない。
まるで脳波に届くように――
―私……死ぬのかしら……―
―ごめんなさい……父さん、母さん……―
(芳香、それに麗子も!?)
―せめてこの娘達だけでも……―
(マリアさんまで――)
一体どうしたと言うのだろう?
幻聴にしてはまるで今の心理状況を率直に語っているような……
「ガキが!! なに余所見してやがる!?」
『危ない達也君!?』
『ッ!!』
眼下に目を向けると……何と此方に向かってキラーエッジがその巨体を浮かし、此方に向かって飛んで来る。
勿論弾幕を張りながら、ベンチクローを飛ばし、右腕のドリルが唸りを上げていた。
一体どうやって飛んでいるのかと言うよりも恐怖が勝った。
とにかく高く飛んで振り払おうとする。
「待ちやがれええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
声を上げて追ってくる。
―本当は達也君の事がこんなにも愛していたのに―
『!?』
薫の声が再び響く。一体何が起きているのだ?
『達也君!! 前方に怪人一!!』
司令の声と共に前を見る。
そこには戦闘ヘリの怪人――以前見た事があるタイプだ。
途中で戦線離脱したからその戦いの結末を見てはいないが、確かサイバージェットとの連携攻撃で倒された奴である。そしてやや遠くではサイバージェットが怪人と空中戦を繰り広げていた。本当は助けに向いたいがその余裕は無い。
下手をすれば今地上から向っている復讐の化け物と鉢合わせさせてしまう。
(挟まれた!!)
慌てて横へ滑る様に方向転換する。
戦闘ヘリ怪人が追って来ようとするが――
「邪魔だどけぇえええええええええええええええええええ!!」
ドリルで振り払うように砕かれ、地上へ破片となって墜落していく。
『お前仲間を!?』
「殺してやる!! 殺してやるぞおおおおおおおおおおおおおお!! ヒャッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
『く、狂ってるのか?』
「この力さえアレばジェノサイザーだって目じゃねぇ!! お前をブチ殺した後はセイバーVも血祭りにあげてやらぁ!!」
今のキラーエッジはまるでバーサーカーのようだ。
相手の狂気に呑まれそうになりながらも達也はサイバーライフルで反撃するがちっとも効いている様子はない。
対するキラーエッジは火力に物を言わせながら追いかけて来る。
国防隊の戦闘機や戦闘ヘリ、リユニオンの怪人までもを巻き込んで――もう敵や味方などお構いなしだ。暴走と言ってもいいだろう。
『クッ!! ここで倒すしか無いのか!?』
だけどどうやって!?
達也は思い悩む。
サイバーライフルは豆鉄砲でちっとも効いている気配はない。
ならば使用する武器はサイバーセイバーⅡかプロテクターのみだ。これでどうやって勝つか……
『聞こえますか達也君』
『寺門さん!?』
ここで戦術アドバイザーの寺門から無線が聞こえた。
『其方の状況は司令部を通して大体伝わっています。サイバータンク、ジェット、トレーラーの全火力をぶつけて倒す――単純ですがソレが一番有効でしょう』
『ですけど――サイバージェットは』
『ええ、ですから今後方にいる化け物を利用します』
『利用――』
『つまり倒して貰うんですよ』
『えぇ!?』
驚くべき提案だった。が考えている時間は無い。直ぐさま実行に移す事にした。
『サイバージェットに連絡お願いします!!』
『分かりました。なるべくギリギリで右に避けるようにして下さい』
『右ですね……』
即興で立てられた作戦だがもう信じるしか無いと思った。
サイバージェットが怪人を引き連れて此方に向い、達也も飛び込むように飛行し、キラーエッジはその後を追う。
キラーエッジは先程からドンドンと此方の耳がおかしくなるぐらいの勢いで弾を乱射している。それ達が背後から追い越し、サイバージェットへ向っていく。これではまるでチキンレースだ。
心臓がドクンドクンと鼓動している。頭がおかしくなりそうだ。直ぐにでも右へ逃れたい衝動に駆られる。たぶんサイバージェットのパイロットも同じ事を考えているだろう。
だが今逃れたら作戦は破綻する。
この作戦を提案した寺門もそれに乗った自分もどうかしていると達也は後悔した。
だが本当に幸運だった。キラーエッジの射撃がヘタクソで。
本当に幸運だった。何発も撃たれてるにも関わらず一発も自分に直撃しなくて。
本当に幸運だった。そのヘタクソな射撃がサイバージェットに当たらなくて。
そして不幸だったのは、その巻き添えを食らった怪人だろう。
見事に作戦通り、互いに右に避けるように交差して弧を描くように逃れる。
サイバージェットを追いかけ回していた怪人はキラーエッジの砲火に巻き込まれて爆散した。
その事を気にも留めず、奴は自分を追いかけ回してくる。作戦通りに動いてくれてこう思うのも何だがハッキリ言って異常だった。今の奴はもう復讐鬼その物だ。自分を殺すまで追いかけ続けてくるだろう。だから倒さなくてはならない。次の一手で。
『指定のポイントまで誘導して下さい!!』
『はい!!』
達也は言われるがままに急降下した。
サイバージェットも何時でも攻撃態勢に移れるようにその場で旋回し合図を待つ。
思惑通りキラーエッジも追従してくる。幸い達也を殺す事しか考えてない上に、飛べるが速度は低かったので容易に誘導できた。
そして――
『指定ポイントに到着!!』
『分かりました。地面に着地次第、再度空中へ逃れて下さい』
『了解!!』
迫り来るキラーエッジ。
砲火の雨が空中から降り注いでくる。
『くぅ!?』
狙いが甘いので先程からと同じく直撃は逃れているが爆風が身体を叩いてくる。耳もおかしくなりそうだ。
「死ねぇえええええええええええええええええええええええええ!!」
そして此方の狙い通り、右腕のドリルを地面諸共穿たんばかりに突き立てて来た。
手筈通り達也は空中へ逃れる。
同時に着地、激しい土煙が上がった。
瞬間、サイバートレーラーのパラボナアンテナからのレーザーが、サイバータンクの主砲が、サイバジェットから激しい攻撃が加えられる。
この三方向からの強力な火力により、キラーエッジの胴体へ激しい火花が飛び散る。
一撃、二撃では攻撃は終わらず爆発の煙で上半身が見えなくなっても攻撃は続けられた。
それを数秒間続けたところで一旦砲撃を終えたが――
「お、俺は死なねぇ……まだ俺は……」
何とまだ生きていた。
身体の彼方此方から火花を起こし、左半身を失って片膝を付き、背中に生える巨大ナイフの右側を失いながらも尚復讐を原動力に動き続けているようだ。
達也も『まだ倒れないのか!?』と驚愕した。
『攻撃の手を緩めないでください!!』
『達也君、今がチャンスだ!!』
寺門と茂の呼びかけに達也は『は、はい!!』と応じ、再度の一斉攻撃が加えらる。
今度はその砲火に寺門も、茂も、そして達也も加わる。
プロトサイバーの重火力が火を噴き、茂の電気の竜巻が唸り、達也のサイバーライフルとエレクトロガンが吠える。
持てる全ての火力を注ぎ込んだ一撃だった。
「そんな……この俺が……こ……の……オ……レ……ガ……アアアアアアアア」
バチバチとスパークし、体中から小爆発が引き起こす。
やがて身体から閃光が漏れはじめ――
『このエネルギー反応は……不味い!!』
『達也君!!』
寺門、茂は達也に何かを呼びかけようとする。
『え?』
達也が状況を理解する間もなく、キラーエッジが大爆発を引き起こしたのはその後だった。
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