第三章:答えはドコにある?
日常
Side 桃井 薫
またしても破壊活動を行うリユニオン。
そして今回はゴーサイバーが担当する事になった。
敵は何時ものように戦闘員と共に怪人を付き纏わせて戦っている。
しかし此方は四人――本来いるべき筈の一人がいない状態での戦いだった。
その事を薫は何故だかとても不安に思った。
達也の安全を考えればこれが最良なのだが何故だかとても心細く感じてしまう。
――傍にいて欲しい。
――私と一緒に戦って欲しい。
ポッ、と心の中でそんなワードが浮かび上がった。
(達也君……)
どうしてもこの後繰り広げられるであろう戦いの事よりも達也の事に意識が向いてしまう。
(いけないいけない!! 達也君の分まで頑張るって決めるんだから!!)
雑念を振り払うように頭を振って意識を無理矢理にでも戦闘に向ける。
そうこうしている内にサイバージェットは着陸態勢に入った。
(例え達也君が帰ってこなくても私は達也君の分まで戦う!! 戦ってみせる!! それが私の償いだから!!)
そして少女は戦いへ赴いた――
Side 結城 浩
華特高校は社会科見学の惨事で犠牲者を出し、そして母校から地球を守る戦隊を生み出すと言う千者千様に判別出来る事態に陥った。
にも関わらず――活気に満ち溢れていた。
いや、この場合はこう言うべきだろうか。
リユニオンに立ち向かうヒーローが自分達の学校にいて。
そして自分達から大切な人の命を奪った憎き敵を変わりに倒してくれる人がいる。
あの大惨事を経験した少年少女達はあの災害を経験し、乗り越えた事で団結心が芽生えたのだ。
『こちら華特高校放送部。本日の出動でゴーサイバーはリユニオンの怪人を無事倒したようです』
この放送と共にあちこちから歓声が湧き出る。
まるで自分達が掴み取った勝利のように生徒達は喜び、そして戦いに趣いた少女達を賞賛した。
「そうか……また勝ったのか……」
その中で一人、学校の屋上から空を見上げる学生がいた。
ヤンチャそうな悪ガキがそのまま成長したような顔立ちと目付きで特に寒くも無い筈なのに頭を温めるニット帽を被っている。
この少年に読者は何となく見覚えがあるだろう。
より正確に解説するのであればサイバベースの襲撃時、サイバータンクで脱出した後達也に基地へ残った薫達三人の事を詰めより、見捨てて来たと誤解して詰めよった生徒。
後日、学校へ登校した時に皆で一緒に率先して謝罪した生徒。
今日も彼――結城 浩は学校に休みがちな楠木 達也を待っていた。
しかし幾ら待っても彼は来なかった。
後々彼が知った事なのだが元イジメられっ子で自殺未遂をする程追い詰められ、薬を飲まないと廃人のように日々を過ごさなければならない程に精神が疲弊していた事を知った。
そんな自分が偶然にも戦う力を得ながらも自分達の必至に戦い、そして傷付き危うく眼前で死にそうになった。
あの時助けようとしたが体が震えて何も出来なかった。頭もまるで熱病に魘されたかのようにボッ~と霞掛って考えられなかった。一歩も動けなかった。
もしあの時、金髪ブロンドの外国人美女の助けがなければ今頃は――
改めて少年は硬く太陽光で熱さが籠もったフェンスをギュッと握り、屋上から青い空を見上げる。その空に少年は楠木 達也の顔を思い浮かべた。
自分達はもしかして試されているんじゃ無いだろうか?
何に試されているのかと言われてもそれを具体的に言葉として紡ぐ事は出来ないが少なくとも浩はそう感じずにはいられなかった。
(そう言えば昔、知らんぷりって言う絵本があったな)
ふと浩はある絵本の物語を思い出す。
丁度小学生の頃の話しだ。
この作品はいわゆる小学生のイジメを題材にした物語でアニメ作品も作られている程であり、暗い体育館に集められてその作品を学年一堂肩を並べて見た事がある。
達也の過去を再び記憶の戸棚から引き出して連鎖的にその作品の事を浩は思い出していた。
そしてふと思った。
自分は達也は少女達に――そして楠木 達也に何をしてやれるのだろうと?
Side 楠木 達也
ヒーローとしての肩の荷が降りたのは良かったと思っている。
リユニオンの大幹部を退けたと言ってもメンヘラの引き籠もり。そんな奴を実戦に出す事事態が間違いなのだ。
だが今はかなり後悔している。
と言うのも達也は基本思考がネガティブだ。どうしても物事を悪く考えてしまう。
だからこんな想像した。
少女三人が今から戦地へ趣かんとしている時、本来共に戦うべき達也だけが一人学校でポツンと平和で暇な学園生活を過ごす。
これを見た皆はどう思うだろうか? 達也は間違い無く侮蔑してくるだろうと考えた。そうなれば中学時代へ逆戻りだ。
だからより達也は引き籠もりになった。
後あまりインターネットもしなくなったし、テレビも付けなくなった。一応訓練(と言っても達也の場合はリハビリレベルだが)は薫に引っ張り出される形で受けているがどうも気まずい雰囲気になっている。
正直むず痒い気持ちだが引き籠もりのコミュニケーション能力ではどうしようもなく、あまり言葉を交わさずに淡淡と基地と家とを行ったり来たりしている日々を続けている。
「達也君……毎日ずっと部屋に籠もりっ放しじゃ体に悪いよ?」
ベッドで横になる達也の傍へ薫が涙声で訴えかけて来た。
ちなみに今日は平日。時間帯は朝。普通の学生なら登校準備しなければならない時間帯である。なので薫の服装は華特高校のセーラー服だ。相変わらずボブカットの前髪やや左側にハートのブローチがついたヘアピンをつけている。
「……ごめん」
布団へ潜りこんで拒絶の態度を示す。
ゴーサイバーとなってからずっとこうだ。
毎朝のようにこうして、まるで母親のように部屋に入り込んで来るのだ。
「……そんなに学校が恐いの?」
「うん」
「私達が信じられないの?」
「うん」
「そう、なんだ・・・・・・」
布団に潜っていた達也は彼女の表情を見てはいないが、きっと残念そうな顔をしていたと思う。「じゃ、訓練の時になったら迎えに行くからね?」と言い残して彼女は部屋から出る。
入れ代わるように母親が小言を言ったが達也はそれすらも振り払った。
(俺の父さんや母さんの学校生活ってどうだったのかなぁ……)
ふとそんな考えが頭を過ぎったがスグに「平穏な学園生活を迎えた」と言う結論を出す。
でなければ自分などこの世に生まれていないだろうし、こうして引き籠もりでいられる程の財力など無いだろう。
尚、達也はゴーサイバーとして給料を貰っているが未だにそれに手を付けていない。それどころか幾ら振り込まれてどれぐらい貯まっているのかすら把握していなかった。
そんな風に過ごしている今この時でも彼女達は生と死と隣り合わせの戦場に行っている。
そして自分はのうのうと引き籠もりとしての生活に甘んじていた。
あの人が現れたのはそんな日々を過ごしていた時だった。
家庭教師と言う名目で親が雇ったらしい大学生ぐらいの優しそうな好青年。背も高く、爽やかに笑みと穏やかな瞳に知的そうな丸い眼鏡が似合っていて女子にもてそうな青年だった。
名前は「黄山 茂」(きやま しげる)と言うらしい。
中学時代の経験で人の名前を覚えるのが苦手になってしまっている達也だが後に達也は忘れられない名として脳奥深くに刻み込まれる事となる。
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