第18話 サラリーマンファイターⅡX

彰人は21時までの勤務を終え、店長やスタッフなどに挨拶をしてから本屋を出た。

自分にはサービス業が合っているなと彰人は思っている。やはりお客様に感謝されると自分もうれしい。心地よい疲れとともにアーケードを歩く。

帰り道の途中にゲームセンターがある。今日、レトロゲームの話をしたのを思い出して何かゲームをやっていこうかと思案した。

制服のままゲーセンに入っていく。最近のゲーセンというのはあまり人がいない。みんな家庭用ゲーム機で遊ぶ時代になったこということも要因の一つだし、あまり昔のように対面で対戦したりしなくなったのだ。


「(今日は何をしようかな・・・)」

何かレトロゲームをやろうと思った。その中でも目についたのが”サラリーマンファイターⅡX”という2D対戦格闘ゲームだった。


”サラリーマンファイター”とは有名なアクションゲーム開発のメーカーが出したゲームで、現代社会のストレスに疲れたサラリーマン達がその鬱憤を晴らすため、様々な場所でストリートファイトするという作品だ。


彰人がプレイしようとしている”サラリーマンファイターⅡX”とはサラリーマンファイターⅡに出てくるキャラクターのバランスを調整し、さらに各キャラクターにゲージをを消費して使うことのできる”超必殺技”が実装されている。

この超必殺技により、格闘のバリエーションが大幅に増えたのだ。この超必殺技を決めた時が最高に気持ちがいい。彰人はそこが気に入っていた。


早速100円を投入し、プレイを開始する。

彰人が選択したのは”タカシ”というオーソドックスなキャラクターだ。このゲームの主人公であり、自分より強い相手を求めてさまようサラリーマンだ。

演出が終わり、ステージ1が始まると思ったその時だった。


デデッデッデーデー

Here come a New challengerという画面が出て、キャラクター選択画面になる。


「(乱入された・・・?)」

このタイミングで乱入するということは、相手は対戦相手に飢えていたのだろう。

昔流行ったゲームなので、CPU戦は飽き飽きしているプレイヤーも多い。このようにプレイしている人を見つけたら誰彼構わず乱入してくるのだ。


そして相手がキャラクターを選択する。

ガシーン!タケェシ!

「(相手はタケシか・・・)」

タケシとはタカシの好敵手<ライバル>だ。同じ職場で働いているが、お互いによく名前を間違えられることで鬱憤がたまっており、ちょくちょくストリートファイトする仲である。


サラリーマンファイターⅡXでのタカシとタケシの性能はほぼ同じだが、タカシが波動に長けていて、タケシは昇竜に長けていることで差別化が図られている。

もちろん、超必殺技の性能も全く違う。対戦相手がタカシなのにタケシを選ぶということは、自分のタケシに相当自信があると思っていいだろう。

彰人はプレイが久しぶりだったが負けるつもりは全くなかった。


そしてラウンドコールが鳴り、対戦が始まった。

彰人はまず草薙波(そうていは)という飛び道具を使ってけん制した。

だが、タケシもタカシとほぼ同等なキャラなので草薙波を使うことができる。

飛び道具を打ち合ってもらちが明かないので、直接殴りにいくことにした。

すると・・・

タケシ「詫び石よこせ!」


”詫び石よこせ”とは相手に叫びながら突進し、押し倒して3発殴るという技である。この技が決まれば強制的にダウンを奪うことができるのだ。

なぜ”詫び石よこせ”なのかというと、タケシは給料のほとんどをソシャゲーに課金する廃課金プレイヤーという設定だからである。金髪でかっこいい見た目なのだが中身は非常に残念なのだ。


彰人はそれを冷静に見て回避。確実に草薙波を当てていく。

すると相手のタケシに隙をつかれ強パンチを許してしまう。

タケシ「ふっ!はっ!詫び石よこせ!」

「(なっ・・・このコンボができるとは上級者か?!)」


それは強パンチ→強キックから詫び石よこせにつなぐコンボである。簡単にやっているように見えるが、それぞれのモーションに”硬直時間”が存在するため、そう簡単につながらないコンボなのだ。相手は熟練者と言っていいだろう。

そうして対戦しているうちにタケシの画面下のゲージがMAXになる。これは隙を見せたら超必殺技が来るだろう。彰人は大いに警戒した。だが、避けてばかりでは勝てない。残り時間も少なくなってきた。彰人は攻めにいくことにした。

だが、一瞬の隙をつかれタカシが大きくよろける。そして・・・


タケシ「いくぜ!課金!微課金!廃課金ィィィン!」

”昇竜課金”という主に対空攻撃を落とすために使われる技の超必殺技バージョンである。

それぞれ、弱・中・強の強さの昇竜課金を連続で叩き込む超必殺技に相応しい大技だ。エフェクトも派手だし、当たったときの打撃音も気持ちがよい。


タカシ「うーわっ・・・うーわっ・・・うーわっ・・・」

タケシの超必殺技”昇竜課金烈破”がクリーンヒットする。超必殺技はきれいに決まると体力の4割は持っていかれるのだ。

タカシはスローモーションになりながら後方へ吹っ飛んでいく。やがて地面に落ちていった。


1ラウンド目はタケシが勝利した。

2ラウンド目。今度はタカシのゲージがMAXの状態から始まる。彰人は強気で攻めにいくことにした。

だが、先ほどのプレイで気をよくしたのか、対戦相手のタケシはあまり攻めてこない。


「(こいつ・・・舐めプしてるのか?)」

舐めプとは”舐めプレイ”の略で相手を挑発するときにするプレイだ。だが、彰人は挑発に乗らず、確実に攻めていき2ラウンド目を勝利した。

運命のファイナルラウンド。お互いのゲージがMAXの状態から始まる。


タケシ「ふっ!はっ!詫び石よこせ!」

詫び石コンボが決まり地面にダウンする。起き攻めで二択を迫る気だ。彰人は下段攻撃が来ると思いしゃがみガードをしたのだが・・・

「(中段のヤクザキック・・・?!)」

見事にあてが外れダメージを食らってしまう。

どうやら2ラウンド目は彰人の動きを把握するためにあえて攻めてこなかったようだ。彰人は目の前の試合に集中する。


だが、彰人も1ラウンド目で対戦相手のタケシの癖を読んでいた。飛び込みジャンプ強キックを頻繁に使ってくるのだ。

それがわかればタイミングを読んで草薙波を当てに行くことができる。彰人は久しぶりではあったが、昔の感を取り戻していた。


何とか持ち直し、相手と同等の体力まで並んだ。どちらも超必殺技を食らえば負けてしまうくらいの体力しかない。残り時間もわずかだ。お互いが超必殺技を当てようと探りを入れていた。


するとしびれを切らしたタケシが少し離れたところから昇竜課金烈破を繰り出す。それを落ち着いて対処し・・・

タカシ「ふっ!はっ!草薙っ!真空ゥゥゥ・・・草薙波ァー!」

草薙破からのスーパーキャンセルで超必殺技の真空草薙波につなぐコンボである。

スーパーキャンセルとは特定の必殺技の特定のモーション中にコマンドを入力することで、動作をキャンセルし超必殺技につなげることのできるシステムだ。


タケシ「うーぉっ・・・うーぉっ・・・うーぉっ・・・」

超必殺技の”真空草薙波”を確実にヒットさせ、彰人が見事勝利した。


「(・・・ふぅ、何とかなった)」

そうして安心していたのも束の間・・・

デデッデッデーデー

Here come a New challengerという画面に変わる。


「(またタケシ使いが乱入してきたのか?)」

キャラクター選択画面。カーソルが動いていく。

ガシーン!ドォスコォイ!

「(相手はドスコイか・・・)」

ドスコイとは己の体を最強に鍛え上げるために相撲レスラーのように肉体改造したサラリーマンである。


だが、ドスコイには飛び道具がない。彰人はタカシの草薙波をうまく使えば勝てると判断した。さっきのタケシ戦で感は取り戻しつつある。それにドスコイはパワーファイターであり、動作が遅く、ジャンプの位置も低い。飛び道具のあるタカシのほうが有利だと彰人は思った。

タカシ「草薙波!草薙波!」

飛び道具である草薙破を連発しけん制しようとするのだが、相手のドスコイは全くひるまず近づいてくる。


ドスコイの必殺技に”十貫落とし”という技が存在する。それは前斜め上に上昇し、高い位置から尻を落とすというものである。

この技にはある特徴がある。それは”飛び道具を回避できる”のだ。発生3F(フレーム)全身無敵であり、この技をうまく使えば草薙破などもはや脅威ではない。相手のドスコイも熟練者のようだった。

そしてあっという間に画面端に追いやられてしまった。


一度画面端に追いやられてしまうとなかなか抜けることが難しいのがこのゲームだ。

ドスコイの千烈張り手が炸裂する。それをなんとか防いでジャンプ強キックを当てにいこうとするのだが・・・無情にもドスコイの手刀が振り落とされ、逆にタカシがダメージを受けてしまう。

「(ほとんどダメージを与えらてない・・・。このドスコイ、一体何者だ?)」

そしてドスコイの怒涛の攻めにより、彰人はあっさりと敗北してしまった。


そして2ラウンド目。彰人にとってはもう後がない。

先ほどのラウンドでタカシのゲージはMAXになっている。うまく草薙波コンボを決めて勝ちたいところだが、またしてもドスコイに画面端まで追いやられてしまう。

ここはなんとしても抜け出したい。レバーを入力する手に力が入る。

そして・・・

タカシ「ふっ!はっ!草薙・・・」

「(ここで↓\→↓\→+Pだ!)」

しかし、手に力が入りすぎたのかコマンド入力を失敗し、強パンチに化けてしまった。


「(ドジったーーーーー!!!!)」

そう思った時にはもう遅い。パンチが伸びたタカシを見て相手のドスコイは超必殺技を繰り出す・・・

画面が暗転し、ドスコイの体が光る。そう、ドスコイの超必殺技・・・


「(スーパー人間魚雷・・・!)」

身体を浮かせ、まるで全身がミサイルになったかのような超必殺技だ。頭をこちらに向け、地面と平行になりながら光り輝くドスコイがものすごいスピードで迫ってきて、タカシの身体に突き刺さる。

ドスコイ「ノッソイ!」

タカシ「うーわっ・・・うーわっ・・・うーわっ・・・」

彰人はいいところを見せられずにドスコイに敗北してしまった。ここまで完膚なきまでに倒されてしまうと逆に清々しい。そして思う。

「(あとでドスコイ対策の動画でも見てみるか・・・)」

この敗北には意味があると彰人は思った。そしてまたこのドスコイと戦いたいと思うのだった。


席を立とうとすると、後ろにはギャラリーが集まっていた。皆それぞれスマホ持ったり、腕を組んで対戦を観察していたり様々だ。その中には動画を撮っている人もいた。

今の時代、スマホにカメラがついていることで誰でも写真や動画を撮ることができるようになった。それはわかるが、自分が敗北したシーンを録画されていたと思うとあまりいい気はしない。


席を立ち帰るため入口へ向かう。その後サラリーマンファイターⅡXにはドスコイに対戦を挑む人がいたようで盛り上がっていた。

久しぶりのゲーセンはやはり楽しかった。負けてはしまったが、それもまた経験だろうと思いながら家路についたのだった。


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