第16話 彼女候補
翌日
彰人が教室に入ると違和感を感じた。クラスメイトの男子から避けられているような気がしたのだ。
その様子が気にはなったが、特に何か言ってくるわけでもない。そのまま自分の机に向かった。
「よっ、彰人く~ん」
悟がからかうように声をかける。悟は至って普通だった。
「・・・おはよう」
さっき避けられたことが気になってしまった。自然とテンションが低くなってしまう。
そこに浅村も声をかける。
「天河、まだ橘さん来てないぞ」
「ああ、そうみたいだな」
隣の席の空はまだ来ていないようだった。しかし、このクラスでは空が彰人の彼女だという認識になってしまっているらしい。
どうにも居心地の悪さを感じてしまう。そんな様子に浅村は言う。
「天河、あんまり気にするなよ?ただのやっかみだから」
浅村も複数の女子と付き合ってるとか、いろんな噂を聞く。でも彰人は浅村に対して最初から変わらずに接していた。
愛だの恋だのはその人の自由だ。それに恋愛して何が悪いのだろう。青春は一度しか来ない。自分だって恋愛をしてみたいと思っていた。
「(でも、思っていたのとは少し違ったな・・・)」
恋愛ってもっとキラキラしたものだと勝手に思っていた。でも実際は他人に嫉妬されたり、やっかみを受けたりして、どうしても人の心の汚い部分が見えてしまう。
マグダナルダの帰りに空と綾香と3人で帰ったときのことを思い出す。
「(それでも・・・)」
たとえ人から否定されても彰人は空を守りたいと思った。
そこに空が教室に入ってくる。そして彰人の隣に座る。
「おはようございます!彰人!・・・あれ?もしかして元気にない?」
「ああ・・・おはよう」
そんなに顔に出ていただろうかと彰人は平静を装う。そこに悟が空に声をかける。
「たっちばなさーん、ちょっと俺に付き合ってくれないか?」
「えっ・・・ちょっと!」
そのまま空の手を取り廊下へ出て行ってしまった。彰人はそれをぼんやりと見つめていた。
浅村が空の席に座り向き直る。そして優しい顔で言う。
「池上ってさ、優しいよな」
彰人も悟が自分に気を使ってくれてるのに気づいていた。浅村は続ける。
「もし、池上に彼女がいたとしたら・・・どうする?」
その問いに彰人は答える。
「えっ?そうだな・・・むしろ悟に彼女がいないほうがおかしいと俺は思う」
ちょっとびっくりしたが、これが偽りのない彰人の本心だった。
「ははっ・・・天河らしいな」
浅村はそう言って笑った。やがて悟と空が教室に戻ってくる。
「わりぃな彰人・・・ちょっと彼女、お借りしたぜ」
”彼女じゃない”とはっきりと言ったら空は傷つくだろうか。そう言い淀んでいたところに空が告げる。
「彰人”くん”は彼氏じゃないです。”彼氏候補”ですから!」
悟はその様子を見てわざとらしく言う。
「ああ、そうだったなー。彰人、振られないように頑張れよ!」
彰人は3人の優しさに触れて泣きそうになってしまった。自分の”いつも通り”を守ろうとしてくれているのだ。
ここでウジウジしていたら3人に申し訳ない。さっきまでの暗い感情はどこかへ吹き飛んでいた。
「ああ、見捨てられないように努力するよ」
彰人の様子を見て3人は笑うのだった。
授業を終え、休み時間になる。空は朱里のところへ駆け寄っていった。いつも通り悟と浅村と話していた。
「そういうや彰人、これ知ってるか?」
そう言ってスマホの画面を彰人と浅村に見せる。そこには・・・
「こ、これ!AV家庭的機械じゃないか!」
浅村も興味をもったらしい。画面を凝視している。そして浅村は言う。
「結構古い感じするけど・・・?レトロゲームってやつ?」
その問いに彰人が答える。虚空さんのゲーム配信に使いたいと思っていたものだ。
「ああ、今から25年くらい前に発売された古いゲーム機だよ。状態も良さそうだ」
「彰人、お前ってさ・・・その面のわりに結構オタクだよな」
「うるせえーな、ほっとけ」
彰人はあまり自分の顔が好きではなかった。自分で自分の顔が好きという人のほうが少数派だと思うが。
浅村はそんな二人の様子を見て苦笑しつつ言う。
「25年前だとどんなゲームがある?面白いかな?」
「定番だとスーパー配管工ブラザーズシリーズとかかな。他は岩男とかが有名かも」
彰人はよく実家でプレイしていた経験がある。今のゲームはグラフィックや音楽が優れているが、レトロゲームにはレトロゲームの良さがある。
「ほーん、俺は全く興味ないがな」
悟はぶっきらぼうに言う。そんな悟に彰人が言う。
「これどうしたんだ?簡単に手に入るものじゃないと思うけど」
「俺の従兄弟の兄ちゃんがいらなくなったんだってよ。そんで押し付けられた感じ」
レトロゲームというのは人によってはあまり価値を見いだせないかもしれない。悟はソシャゲーはプレイするがレトロゲームとは縁がなかった。
そんな悟に思い切って聞いてみる。
「なぁ、これ1週間くらい借りてもいいか?やってみたいソフトがあってさ」
正確には虚空さんが使うのだが、それを言う必要はないだろう。
「お、オタクの彰人くんのお眼鏡にかなったか?俺は興味ないから持ってていいぜ」
そう言ってから、そういえば・・・と続く。
「なんか専用カートリッジ?だっけ、あれも何本かあるからそれも持ってくるわ」
「配管工ブラザーズ っていうのはある?」
「配管工?配管工カートに乗ってるやつか?」
悟はレトロゲームに詳しくないが、配管工は様々なゲームに登場する人気キャラクターだ。
最新機の配管工カート8という作品で自慢のカー十に乗り爆走している。
「ああ、それのやつなんだけど・・・」
「うーん・・・そう言われてもわかんねぇな。帰ったらLINE送るから待ってろ」
「ああ!よろしく頼む!」
もし、スーパー配管工ブラザーズがなかったとしても中古ショップで買えるだろうし、本体が借りれるのは彰人としては嬉しい誤算だった。
そして、彰人、悟、浅村の3人でいつも通りの日常を過ごした。
放課後になり、制服のままバイト先の本屋へ向かっていた。本来は休みだったが、昨日店長から電話がありシフトに入ることにしたのだ。
アーケード街の一角にあるその本屋に向かい歩く。今日は同じ頃にアルバイトとして入った北条 凛(ほうじょう りん)の代わりとしてシフトに入ることになっている。
店内に入り、そのままバックヤードへと向かった。
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