第22話 お風呂でドッキリ再現

「魚住」


「何だ、お嬢様」

 皿を拭き終わりエプロンを外して共同スペースにやって来る魚住。


「この漫画を見て」


「これは…。今、男子の間で流行っているラブコメ漫画


【今、お風呂中です!〜風呂から始まるラブトラップ】


 じゃないか!


 なんでこんなものを持っているんだお嬢様!?」


 そう言うと思った魚住に私は不敵に笑って見せた。


「ふふふ、今日私はクラスの子に掃除を押し付けられてね…」


「え…可哀想な女…」

 とボソッという執事を無視して


「その時に偶然床に落ちてたからちょっと拝借してきたのよ!」


「うわ、普通に盗んできたんすか?犯罪じゃないすか!ダメですよお嬢様!俺が付いてくから警察に出頭しましょう!」

 と言う魚住に


「何言ってんのよ!ちょっと借りたくらいで!大体こんな漫画ごときで警察に行くなんておかしいでしょ?」


「でも持ち主の許可無しで持ち去るのは犯罪でしかないぞ?俺はもう知らないぞ!刑務所の中で1人不味い飯を食べるお嬢様が浮かぶ…」


 凍える寒さの中、女子刑務所に収監され先輩受刑者から容赦のないいじめをされる私…。


 をちよっと想像しちゃったじゃないのおおおお!!いや、漫画借りたくらいでなるか!!


「魚住!とにかく私が言いたいのはこのシーンなの!!」

 とページを開いて見せる。


「っち。話題を逸らしやがって」

 とかブツクサ言っていた魚住は


「いったい何なんです?いつもの様にヒロインがお風呂入ってたら主人公が覗きにくるやつでしょ?これも犯罪ギリギリなんだろうけど漫画だから…」


「そう、これはヒロインがお風呂に入っていたらあの手この手で主人公が覗きにきて、ヒロインには『ドッキリでしたー!!』と言って騙すオチのラブコメ作品よ」


「めちゃくちゃ読み込んでるな。一応男性向け作品でちょいエロを含んでいるのに」


「ちょいエロくらいなんともないわよ!てか女の裸なんて興味ないわ」


「お嬢様はBL派ですもんな」


「そう…。イケメン同士の恋愛の方が萌えるし。


 …ってそんなことはいいのよ!


 私が言いたいのはね、これちょっとやってみない?あんたと私で」


「………は!?」

 と魚住は氷の様に冷たい目線を向けた。


「待って!何か金たがいしてる様だけど、そういうあれじゃないの!!


 さ、再生数!!

 本当に私が裸になるわけじゃないの!ちゃんと水着を着るわ!


 動画を撮ってゆーちゅーべに上げて再生数を稼ぎ金を得るのよ!!有名ユウーチューボーに私はなる!!」


 と拳を握り言うと魚住は


「……いや、お嬢様それは無理だと思う」

 と残念そうな顔をして言うから


「何故よ!?いい案じゃない!!美少女の出演でお金バンバン入るしいいねされまくっていい気分になるし」

 と期待を込めて言う私に魚住は残酷なひと言を放った。


「まずお前は美少女ではない。

 再生数は追いつかないどころかフォロワーもできない!


 いいねなんて自分ですることになるし、半年後には放置されるチャンネルになる未来しかない」

 と言う。


「はいいいい!?あ、あんた!!ふっっざけんじゃないわよ!!


 私が脱げば皆釘付けよ!!お風呂でドッキリしちゃうでしょ!?」


「ない!!」

 キッパリと真剣な顔で言う魚住に嘘は無かった。


 そんな!!マジか!?イケると思ったのに!!そりゃ確かに胸とか全然ないけど、こんな美少女が水着とはいえ人肌脱いでもダメとか!


 はっ!まさか、魚住!私のことが好きでそんなことを?


『俺の他にお嬢様の裸なんて見せない』


 みたいな!?


「そ、そう。よくわかったわ魚住」


「?そうか。わかりゃいいんだ。無駄なことをしても仕方ないからな」


「ええ。だから魚住がお風呂に入ってよ。それなら別にいいでしょ?」


「何でそうなる?あたおかかお嬢様。それとも俺の裸が見たいのか?


 この変態お嬢様」


「見たいわけないでしょ?金が欲しいのよ!!」


 一応魚住はイケメンだし再生数も伸びるかも。


「だが、断る!!そもそも俺で稼いで学校の先生に見つかったらアウトだ。絶対怒られるじゃないか!!そして俺とお嬢様の関係性も生徒たちにバレてなんやかや噂になってしまうぞ!?」


「はううううう!!」


 そ、それは嫌だ!!こんな奴と一緒に狭いアパートで暮らしてるとか知られたらお嬢様の私の品格も疑われるし、


『魚住くんと同棲!?やだ!何であの女と!?』


『許せないわ!いじめてやる!!』


 ってなるに決まってるわ!!

 くっっっ!!


「わかったわ。この案は諦めるわ」


「ようやくわかったか」


「じゃあ魚住、この漫画、今から教室に返して来てくれる?」


「お前が行けよ。借りパクお嬢様」


「で、でも!外から真っ暗よ?」


「お嬢様、大丈夫。あんたを襲う馬鹿はいないから」

 と魚住は玄関まで見送りドアから閉め出して鍵までかけた!!

 酷っ!!酷すぎない!?


 仕方なく私はトボトボ学校まで漫画を返却に行って警備のおじさんにちょっと怒られつつも落とし物入れに漫画をそっと置いたのだった。


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