第2話 ライバルというか生ゴミよね

 お正月なので人気はないけど、神社の近くを通ったら長い列ができていた。賽銭するまでに時間がかかりすぎね。あんなのやる奴の気がしれないわ。


 と思っていると、魚住が耳元で囁いた。



「お嬢様、フードが付いている服を着ていると、色々と得ですよ。


 賽銭を投げた人のおこぼれがフードに溜まるのです」

 と神を冒涜した、とんでもない囁きをしてくるクソアニヲタ執事。


「あんた何言ってるのよ。まさかその為にフード付きコート着てきたの?」

 と魚住の格好を見ると、フードのついたグレーのコートに黒のズボンを履いている。


「は?たまたまこれしかコート持ってないからですけど」


「ああ…そう」


「どうします?折角なので、お参りして行きますか?」

 と聞くが、冗談じゃないわよ。こんな所にいたら、誰か知り合いが通りかかったら堪らないわ。


 今日の私は、着物じゃないけどファー付きの薄桃コートに、上品なチェックスカート、黒のタイツとブーツを履き、黒髪はサラサラに仕上げた美少女お嬢様だ。とても1Kアパートから出てきたとは、誰も思わないだろう。


「このどこから見ても完璧な、美少女お嬢様の私が、地味ホストみたいなバカ男と並んで学校の知り合いにでも会ったら大変よ」

 と言うと魚住は


「めんどくせえ…」


「何か言った?」


「いえ、そうですね、なら俺だけお参りして、その神様に一年恩恵を受けさせて貰おう!」

 と言う。

 ええ!?なんかズルくない?


「ちょ、待ちなさ…」

 と私もお参りしようとしたら、前から参拝の終わった着物集団が!


 あ、あれは!!


 まさか、小檜山財閥と肩を並べ競っている、恵比寿財閥の1人娘、恵比寿柚乃じゃないの!!


 私とは学校でも顔を合わせると、バチバチとやり合う仲だ。髪はギャルみたいにクルクルパーでサラ艶黒髪の私と違い、茶髪で汚らしい。


「あれは、恵比寿財閥の柚乃様…」

 と魚住が言うと、小汚い柚乃が椿模様の振袖を着て、こちらに気付いた。


「あーら?もしかして、美玖様じゃなくて?」


「……あら、柚乃様?神社の前に捨てられたゴミかと思いましたわ!おほほほほ!」


「はあ!?ゴミ?新年から言ってくれますわね!!


 この私の100万円の着物をゴミだなんて!品格チェック見た方がよろしくてよ!」

 因みに品格チェックとは、正月特番でやる人気番組だ。


「明けましておめでとうございます、恵比寿様」

 と魚住が挨拶すると、途端にゴミ…、いや、柚乃がキラキラな目になり、恥ずかしそうな仕草をしだした。

 魚住に恋していることが一発でわかる。

 うわぁ、こいつの本性知らないから、哀れすぎるわ柚乃。


 ま、どーでもいいけどねっ!


「魚住様!あ、明けましておめでとうございます!!そのグレーのコート素敵ですわ!!」

 うっわ、マジかよ。魚住のコートなんて、もう3年も同じの見てるわ。いい加減に買い換えろよって言っても、じゃあ金くれという代物だし、ポケット破けてたの、去年縫ってたんですけどぉー。

 お前こそ品格チェック見ろや、小汚い柚乃よ。


「では僕達は、お参りがあるのでこれで」

 と魚住が頭を下げると、名残惜しそうに


「魚住様!も、もしよければ、これから皆で予約してあるホテルで、新年会パーティーに参加しませんこと!?」

 と魚住を新年会パーティーに誘ってきた柚乃、改め、生ゴミ。


「え…?新年会パーティーに?俺なんかが…!?…い……っだ!!」

 私は魚住の足を踏みつけ、先を言わせない。


「あら、残念ですが、うちの!私の!魚住は、これから小檜山財閥の新年会に出ますの!」


「え?そんなのより、うちの豪華な新年会パーティーの方が魚住様には楽しんでもらえるかと!


 というか、美玖様の専属執事なんて辞めて、私の専属執事になりませんこと?」

 と言ってくるゴミ。


「ごめんなさいね、魚住は小檜山財閥に昔から仕える家系ですのよ?


 それは無理ですわ!ほほほほほほ!!」

 と高笑いし、ゴミはギリギリ悔しがった。


「行くわよ、魚住」


「はい、お嬢様。ではまた恵比寿様」

 と魚住は挨拶し、私達は境内へと参拝の足を運ぶ。

 後ろでギリギリと歯軋りが聞こえたが、完全に私の勝利!ざまあだわ!あの生ゴミが!!

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