Showcase
DJはその声に驚くと、慌てて曲をかける。二人は顔見知りであり、DJは青年に元々お願いされていた。
青年がもしこのバトルを優勝したら、この曲を
皆が似つかわしくない曲に!呆気に取られる中、青年はその曲を踊りだす。Breakin'、Krump、HIPHOPではない、青年は美しいバレエのようなコンテンポラリーのようなジャズのようなダンスを踊りだす。先ほどまであった青年のおちゃらけた雰囲気はなくなり、真剣な顔つきと幽玄な踊りは誰をも目を釘付けにする。指の先、つま先、髪の一本一本、すべてに神経が通わされた踊りに、誰もが距離を開けて、人間でできたサークルは大きく、さらに大きく広がっていく。すでに夜になった野外会場は、静まり返っていた。
そんなサークルに、一人上から飛び込んできた。その人は美しい黒髪を靡かせて、幾重にも美しい布が重ねられた白から薄青へのグラデーションが美しい漢服を着た人。美白肌にアジアンビューティーの最高峰のような顔だちをしたその人は、美しく踊る青年の隣で踊り始める。青年とは違い、まさに中国舞踊といった動きでダイナミックに踊り始める。
幽玄のような光景とは、まさにこのことを言うのだろう。
青年はその飛び入り客に気づき、驚きのあまり目を見開く。そして、まるで一緒に踊ろうと言わんばかりに、近づき踊りで絡みつく。美人は驚くと、その青年の求愛のような絡みつきを美しく躱しつつ、踊りを続ける。もうそろそろ、曲の終わりだ。クライマックスに向けて盛り上がる曲に、青年の絡みつきが強くなる。曲も情念溢れる曲だから、違和感がないが、美人は激しくなる執拗な動きを躱しきれなくなっていた。
そして、最後、美人がポーズをとると、青年は絡みつくように後ろから抱きしめた。辺りは静寂に包まれており、皆の顔は驚きのあまりだらしない顔になっていた。
「……ッ!神試合だ!神舞台だ!!」
観客の一人が、意識を取り戻したのか、大声で叫んだ。その声に、呼応するようにまた一人また一人と覚醒し、その完成は優勝が決まった時をはるかに凌ぐもの。このような素晴らしい
その熱狂の渦の中心にいる二人は、今だ青年が美人を後ろから抱きしめたままであった。青年の腕に収まるサイズの美人は、なんとも破廉恥な状況に困りながら口を開いた。
「若人よ、良い踊りだった。……年甲斐もなく飛び入りしてしまい、すまないな。もういいぞ」
顔に似合わない年寄り臭い口調の彼女は、お礼を言いつつもこの状況をどうにかしようとした。しかし、青年の腕は彼女から離れることはない。
「いえ、それにしても、声までかわいいんですね。声に可愛いという感情を初めて知りました」
「かッ!可愛くなんぞない!私を愚弄するのか!」
青年はたいそう嬉しそうに、彼女の声をリフレインし、何度も何度も可愛いと愛でてしまう。しかし、彼女は予想に反して激昂した。可愛いは、彼女にとって、少しばかり触れられたくないことなのかもしれない。
「反応まで、想像以上にかわいいです。お名前、教えてもらってもよいですか?大切に咀嚼したいので」
「教えるか!」
美人は思わず叫んだ。
しかし、青年は幸せそうな笑顔を浮かべ、一切動じることがない。
ダンスの構成や技のチョイスだけではなく、日常会話すらも調子が狂わせてくる青年。久々に骨が折れる相手に美人は思わず吠えてしまった。
それは、青年の前で大きく隙を生み出してしまう行為。
青年はずっと待っていたその隙を見逃さなかった。
抱きしめながら、漢服の腰布になっている布を掴んだ。それは、美人にとって一番
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