死が彼の者を放つまで【第一編完結済み】※更新停止中

前世はヒグマ

プロローグ 語られる開闢の物語

それはこうある。


神が世界を創り、そこに住まう人をつくった。

これが今に続く神による秩序の世界の始まりである。


生まれた世界は神の秩序により回り続ける。

不変の速度で、いつまでも、いつまでも。

ただ、完璧な秩序どおりに進む世界は、美しくこそあれ特別な輝きや彩りは無い。

秩序に則って世界が膨らむだけ。

淡々と、ただ淡々と時が積み重なり進むだけ。


神はやがて世界を眺めるのに飽き、今より変化と驚きに満ちる世界にしたいと望む。すると、秩序と相反する混沌を生む神と人の命に限りを齎す神が現れた。

二柱の神により人は定められた命の中、混沌に立ち向かい神の意を体現しようと努力するようになった。

混沌を糧に人は成長し、世界は神の秩序を基に色鮮やかに輝き出した。

神の望んだものがそこにあった。


だが、やがて変化は、良くも悪くも神の期待以上に生じることとなる。

そして、神にとっても世界にとっても残念なことに、中でも最も大きい変化は最も望ましくない変化を兼ね備えてしまった。

それは混沌に起こった異変。

生み出された混沌がいつしか、ただ人の糧に収まるのをよしとしなくなったようで、その不満を象徴するように産まれたのが俗に魔王と呼ばれるものである。


魔王も最初はただの混沌という魔の一部でしかなかった。偶発的に産まれた当初は他の魔と同様に人が成長するための壁でしかなかった。

だが、特別な壁は他とは違い、人に越えられる度に再び高くなって立ち上がった。

人知れず何度も何度も立ち上がり、壁はどんどん高くなっていく。

やがて、死という限界を人が背負うことになった世界では、永遠に高くなり続ける壁は少しずつ、だが着実に人の越え得るものでなくなっていった。


その時、つまり魔王を人が越えられなくなった時が来たり、窮地に置かれた人類に齎された神の愛が勇者である。

人を愛するあまり神によって齎された特別な秩序、それが勇者である。

そしてこれが、今に続く争いの、世界の始まり。

よって、人は神の意志を実現するために混沌に立ち向かい。魔は秩序に抗う。

一方は神の寵愛を受けし勇者と、もう一方は叛逆の旗印である魔王とともに。


そう、全ては神のために、よりよい世界のために。

望もうと、望むまいと。

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