第21話「迷わずの森の変化」
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朝方、ピーネの寝床にて、幸はやるべき事を見つけた。
「「楽奴の解放!
まずはバーウの村の楽奴達の解放と、町のみんなに音楽を届けよう!」」
キヨラと幸は意気込む。
「そうと決まれば……。
とりあえずピーネが起きるまで寝るぞ!」
幸は意気込みとまるで逆の決意を掲げだす。
「なんで!!
そうと決まれば直ぐに動き出すでしょ!」
キヨラのツッコミはもっとも。
幸は黙って立ち上がり指差す。
その腕は身体から垂直に90度に上げられている。
その先には、青々とした森の一端になる葉が生い茂り、大地はない。
そう。ピーネの家はかなりの高所にあり、人間が自分達で降りれるようなものではなかった。
「ねっ。
ピーネが起きるまで、俺達だけじゃ動けないんだよ。
そしてピーネはめちゃくちゃ朝に弱い。
多分昼まで起きないよ。」
幸は昨日の経験を語る。
「ふーん……。
さっそく私の出番ってわけね。」
キヨラは呟く。
幸は知っていた。
起こした所で羽交い締めに合い、柔らか温かい牢獄の中で眠るしかないことを。
キヨラがたとえ揺すったり、大きな声で呼んだりした所で、意味などないのだ。
キヨラは予想外の行動に出る。
「ダースパちゃーん!!
来てー!!!」
まさかの外に向かっての大声。
「ダースパちゃん?
何をしてんだよキヨラ!」
―シュッ―
「呼んだかしら、キヨラ。」
ニュッと音も立てず現れたのは昨日のライブを見に来た大蜘蛛だった。
「来てくれてありがとー!
昨日ぶりだね。
私達ここから降りれないんだー。
ダースパちゃんお願い!
下ろしてくれない?」
顔の前に両手を合わし可愛いウィンクをお届けするキヨラ。
「もちろんいいわよ。」
ダースパちゃんもウィンク返し。
「えっ!?
いつのまにそんなに仲良く!?」
幸は驚きが隠せない。
「幸が、すぐにルーコルアで酔って寝ちゃった時よ。
私こう見えて22歳なの!
お酒も大好きだし。とっても強いのよ」
なるほど……。
ルーコルアはお酒ではないが、似たような気分を味わえる飲み物。
それはそれは楽しい宴の夜を過ごしたのであろう。
それにしても、音楽で通じ合ったとは言え、魔物といきなりこんなにも仲良くなれるのは、キヨラの才能ではないだろうか。
“カサカサカサカサ”
ダースパちゃんは6本の脚を巧みに使い、二人を乗せてあっという間に木を降りて行く。
大蜘蛛の背に乗り二人が地上に降りた時、そこは昨日見た異種族混合村とは大きく違っていた。
「……なんか、すっごいモーツァルトのピンク色……。」
異種族混合村と呼ばれる所以は、のけ者にされていた一種族の魔物一体ずつがパラパラと集まって出来た村だからだ。
それはつまり幸のような、いじめられっこが集まって出来た村。
しかし、今はどうだろう。
村中が、種族がつがいになりイチャイチャと恋のフェロモンでいっぱいになっている。
昨夜のライブの時に増えた魔物達がそのまま村に住み着き、のけ者にされていた魔物達とも和解して、みんなでよろしくやっているのだった。
「もっ、もうこれは町と言って良い規模なんじゃないかな?
みんな仲良くなれて良かったよ。」
幸の気持ち。
◇◇◇
幸がこの異世界に来て、初めて大きく変えてしまう事になった事例が、この迷わずの森になる。
のちに迷わずの森は、混合村の規模が森全土へと広がり、仲間という巨大な結び付きの生き物が集まり、生存し共栄し合う、【迷わずの要塞】と呼ばれる事になる。
幸の音楽はこれからどんどんあらゆる事柄に革変をもたらして行くのであろう。
◇◇◇
「凄いね、なんかみんな幸せそう。」
キヨラの感想。
さらに続ける。
「さぁ!!
地上に降りれたし、どうする?
いきなりバーウの村に行ってゲリラで演奏でもしちゃう?」
キヨラの突飛な思いつきに幸はどう答えるのか。
…………。
……。
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