夢(見がちすぎる)姫と面倒姫
茂由 茂子
第1章 夢姫、決意する。
第1話 夢姫、決意する。(1)
昔々あるところに、夢姫と呼ばれる姫様がおりました。夢姫は、生まれたときから「世界の宝石」と呼ばれるほど美しく、彼女の髪の毛が靡けば金色の小麦が揺れるようだと賞賛され、透き通ったもちもちの肌は雪のようだと言われていました。エメラルドのような輝きを持つ彼女の瞳で見つめられれば、性別は関係なく、心を奪われない者はおりませんでした。
蝶よ花よと大事に、大事に育てられた夢姫は、自国はおろか王城からも出してもらうことはほとんどありませんでした。そのせいか「いつか白馬に乗った素敵な王子様が私のことを迎えに来てくださって幸せにしてくださるのだわ」と、少し夢見がちな姫様へと成長しました。
はじめは、「夢で逢いたいくらい綺麗な姫様」という意味で夢姫と呼ばれておりましたが、次第に「世間知らずで夢見がちな姫様」という意味で呼ばれるようになりました。彼女にはやりたいことは特になく、ただただ目の前に興味があるものができればそれに熱中し、夢のような言葉を並べ立て、飽きたら見向きもしない生活を送っていたからです。
それを案じた王様はある日、夢姫を自分の部屋へと呼び出しました。
「そなたは将来、やりたいことはないのか?」
王様は夢姫に尋ねました。齢十六を迎えた夢姫を心配してのことでした。猫足のソファに腰を降ろして、目の前にある猫足のテーブルに並べられたティーセットを堪能していた夢姫は、なにか珍しいものでも見たかのような瞳で王様を見つめました。握っていたクッキーをソーサーに降ろし、指についたかけらをナフキンで拭きました。
「やりたいこと、ですか。わたくしはありがたいことに、毎日やりたいことをして過ごしておりますわ。これもすべて、お父様のおかげにございます。ありがとうございます」
思っていた回答と違うものがやってきて、王様は戸惑いました。そうではなく、将来どんな人になりたいのかと聞きたかったのです。
夢姫には、立派な弟が三人居ます。弟たちはすでに、国を守る柱として王様の手足となって働いていました。ゆくゆくは、第一王子がこの国の王様になることも決まっています。将来の確定的な進路が決まっていないのは、夢姫だけでした。
「そうだな。昨日も庭園の東屋で昼寝をしていたと聞いた」
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