33 瞳は黒だし、肌の色は白ではない

 もし、誰かが何らかの事情でサリの素性を隠そうとしたのなら、濃い茶色の瞳はいいとしても、白い肌を持ち、白銀のような髪を持つ女性、というのも妙だ。



 あの世界戦争で、世界の人口分布は大幅に変わった。

 中国、インド、アメリカ、EUという大きな人口を持つ国々の内、アメリカとヨーロッパの人口は壊滅といえるほどの減少を見た。

 現在のホメムの祖先は中国人、インド人、ナイジェリア人、ブラジル人が中核をなしている。


 わずか六十七人にまで減少した人類の中で、ヨーロッパ系の人々が純血として生き残ってきたとすれば、非常に珍しいことではないか。

 そんな目立つ特性を、サリに付与したとは考えにくい。



 いや、だからこそ、濃い茶色の瞳と白い肌を持った白銀のような髪を持った女性、というのは真実なのだろうか。




 もうひとつの可能性。


 クローン。

 製造を、そして存在を禁止された生体。




 技術は数百年前に確立している。

 しかも、クローンなら、生体の性質はいかようにも変えることができる。

 肌の色といった表面的なことはもちろん、生体の内部構造も、人としての性格も。

 そして、本人の意識とクローンの意識を同期させることさえできる。



 極めて高度なアンドロを製造できるようになり、人そのものの再生技術も進んだことから、クローンの需要はなくなった。

 ただ、何らかの目的で、自分のクローンを作る者がいることも事実。


 彼らは政府の厳しい目をかいくぐってクローンを作るが、アンダーグラウンドや宇宙空間に浮かぶ非公認の研究所に支払う高額な費用と、万一露呈したときに身に及ぶかもしれない危険を考えると、割に合わないといわれている。




 サリはクローン。可能性はあるだろうか。

 ならば、誰のクローンなのだろう。


 しかしその誰かは、危険を犯して作ったクローンを兵士にするだろうか。

 そうすることによって、何が得られるというのだろう。


 その可能性は考慮に値しないのではないか。





 イコマは、サリがユウであることの可能性を吟味した。


 メルキトという情報が正しければ、ユウではない。

 ユウはマトとして扱われるはず。


 万一、光の柱の守人、つまり女神という特殊な立場を利用して、肉体再生人間とはならずに六百年を生きてきたとしたなら、ホメムとして扱われるはず……。



 だが、地球にそんな技術はないはず。

 神でない限り。


 ユウの瞳は黒だし、肌の色は白ではない。

 髪は黒。

 ただ、探偵の情報が間違っているなら、話は別……。




 空しさを感じた。


 結局、なにもわかっちゃいない……。



 しかし、サリという娘に会ってみたいという気になった。

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