6 相変わらず機嫌悪いな

 俺はチョットマが街を駆け抜けていくのを見て、眉をひそめた。


 あいつ、また取り乱して。

 これ見よがしに武器を携帯したまま、街の中を走るとは。

 当局の監視カメラはこの様子を間違いなく捉えている。

 これを見た監視官はどう判断するだろう。


 このことだけで、チョットマが要注意人物リストに載ることはまずない。

 しかし、万一ってこともある。その場合、我ら全員が一蓮托生。

 だいたい、サリが再生しないと分ってからというもの、こいつの行動は異常だ。

 元来、天真爛漫をはるかに越えた直情タイプだが……。



 チョットマは戦闘系の兵士ではないが、危険察知能力は他を寄せ付けない。

 迫り来る危険を察知するというより、予知能力があるのではないかと思えるほどだ。

 しかも、その後の行動の的確さ。

 彼女のこの能力によって、部隊は大きな損害を、これまで何度免れたことだろう。

 しかも、敏捷性はもはや常人ではない。

 数百メートル四方を瞬時に焼き尽くす散弾ミサイルの十連発を食らった後でも、焼け野が原に何食わぬ顔で立っていられるのはチョットマならばこそ。



 しかし、最近のチョットマは、ハエほどの破壊力しか持たない小さな飛翔系マシンにさえ手こずっているし、移動能力も極端に落ちているようで、街への帰還はいつもしんがりだ。


 こいつが、サリを姉のように慕っていることは知っている。

 そして、サリがこいつを可愛がっていたことも。





 漠然とした不安にかられた。


 慌てふためいた様子で周囲を確認することもなく、チョットマがコンフェッションブースに駆け込む様子を見た。

 ひとつの浮遊型カメラつまりフライングアイが、この様子を見つめているかのように、ゆっくりと近づいていくのを見た。



「やあ、ンドペキ、何してる?」


 突然後ろから声を掛けられて、びくりとした。

 振り返ると、部隊のメンバーがひとり、ラフな格好で立っていた。


「お、オシャレだな、スジー。どこで買った? その、んー、ワンピースか?」


 装甲は身につけていない。スジーウォンは、薄い紫色のコスチュームを着ていた。

 確かにワンピースではあるが、胸元には金属製のピカピカする喉当てが付いており、極端に太いベルトがみぞおちあたりから腰までをカバーしている。

 裾は膝くらいまではゆったりしているものの、その下は急速に細まり、くるぶしはピッタリと包み込まれている。



「いいだろ」

 スジーウォンはそう笑ったが、どことなく、不機嫌そうだ。


 兵士は、街中においても、素顔はおろか髪の毛一本さえ見せることはないが、長年共にいると、相手の気分は分るようになる。


 この女は、小顔でくりくりした目のキュートな顔をしているが、これが素顔だとは誰も思っていない。

 自在に顔の形を変えることのできるマスクを被っていることは間違いない。

 兵士のうち、街中では、この手のマスクを使う者が七割、軽装備のヘッダーを被る者が三割。

 俺もマスクを使う。

 このマスクの「顔」を一定にすることで、どこの誰かがわかる。



「突っ立って、何見てた? さっきから」

「ん、なんとなく」

「ヘン」

「そうか?」


 チョットマを見ていたとは言いたくない。

 勘ぐられるのはゴメンだ。


 しかし、スジーウォンは、

「チョットマを見てたんだろ?」と、からりとした笑い声をたてた。

「ん?」

「まあ、いいよ」

「ん、おまえ、俺を監視してたのか」

「あれ、相変わらず機嫌悪いな」

「なにか用か」

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