ハナちゃんとリンジくん

yui-yui

序章:ネトゲの出会い

 私の名前は香椎羽奈かしいはな

 趣味は作詞作曲、ピアノやシンセサイザー、いわゆる電子鍵盤楽器演奏と、それを伴奏にして唄う弾き語り。

 それとネットゲーム。

 今日はゆっくり時間が取れるので、大好きなネットゲームをしている。

 ここ数年ずっとはまりっぱなしの国産オンラインロールプレイングゲーム、Fantasyファンタジー Planetプラネット Online2オンラインツー、略称FPO2エフピーオーツー

 平たく言えばTPSサードパーソンシューターっぽいアクションロールプレイングゲーム。キャラクターメイキングがとても細かく設定できて、自分の理想に近い形でキャラクターを仕上げることができる。キャラクターを彩る衣装やアクセサリーも豊富で、その季節やイベントに合った色々なお洒落もできて、凄く楽しい。

 一時期はクランにも所属して、色んな人と冒険をしていたけれど、そのクラン内でちょっと煩わしいことがあって、私はそのクランを抜けてサーバーも変えた。

 クランを抜けてからはどこにも所属しない、いわゆる野良として、ぶらぶらと独り気ままな冒険を続けている。

 途中でやらなくなったりした時期もあるけれど、このゲームを始めてからもう二年半になる。レベルも上がって装備もそこそこの強さになってきたし、独りでぷらぷらするのに何ら不都合はない。

 緊急レイドイベントなどがきたら、私と同じ野良プレイヤーたちとそのイベント限りの協力体制を取ってクリアして行けば、それなりのアイテムや武具も手に入るので何ら問題はない。まぁそもそも、レアアイテムを集めて最強!なんて目指している訳ではないので、そんなに躍起になってレイドイベントにも参加はしていない。

 クランというのは要するにチームのことで、誰かが代表となって作ったチームに所属したり、自分でチームを作ってメンバーを募集したりする、一つの集団だ。賑やかだし友達もでき易いので楽しいのだけれど、所詮は匿名同士の集まり。面倒なことは当然起きるし、それが男女間のことともなれば尚更だ。私は性別を隠したりしていないので、その男女間のいざこざに巻き込まれてしまったのだ。

 キャラクターだけ見て本気で好きだとか付き合おうだとか、気持ち悪すぎる。実際に会ってみたいとかだけならまだしも(よほど信頼できる人じゃなければ会う気にもなれないけれど)、ゲーム内だけで見えている部分のみで人を理解したつもりになっている人間のなんと多いことか。そもそもゲームキャラクターなんて多くの人が理想の美男美女に創っている。自分で言うのも何だか癪だけれど実際はそんな、創ったような外見通りの顔なんてしている訳がない。

 ま、それはともかく。

 キャラクターネームはFanaファナ。本名が羽奈なので、ちょっと変えてファナ。

 見た目は女性型アンドロイド。といっても『ほよよ系』ではなくいわゆるメカ女、ロボ子だ。カッコ良くて可愛くて、いかしたデザイン。男どもに媚びない凛々しさもある。超お気に入りだ。

「今日は何やろっかなぁ」

 自室でソファーベッドに寝転がってゲームのコントローラー操作する。とりあえず砂漠地帯へ。ここは初心者にはちょっと辛いかもしれないくらいの大型モンスターが割と出てくる。

「ん……」

 もう誰か戦ってるっぽい。私のゲーム画面にも緊急トライアルの表示が現れて、大型モンスターの名前が討伐対象として表示された。もの凄く巨大な蜘蛛みたいな、何回見てもキモいやつだ。画面右上にエリアマップが表示されているので確認。敵性反応はエリアマップに表示されるため、すぐにそこへ向かった。

「あ、死んでるし」

 先に戦闘していた誰かが大型モンスターにやられたようだ。私はすぐにその場で生き返るとこができる回復アイテムを投げる。一応こういうのはマナーだ。きらりん、と光が広がると、倒れていた人が立ち上がった。

 名前はれい。女性キャラクターで、緑色の長い髪。すらりと背が高くてクールビューティーな印象。私も女性型アンドロイドだから、クールビューティなのは良い勝負だ。

『おぉー?ありがとうね、助かったぁ』

 とゲーム画面にマンガのような吹き出しが現れる。キャラクターの見た目とは裏腹に呑気なお礼が返ってきた。彼女はそう言うや否や武器を構え、引き続き戦闘を始める。どうやらこの大型モンスターを倒す気でいるらしい。

 この大型モンスターは私なら一人でもそれほど苦戦もせずに倒せるレベルだけれど、まだ初心者なのかな。相手のステータス画面を見ればレベルや正確な職業も判るけれど、今は戦闘中。それをやってしまうと、当然私のキャラクターは棒立ちだ。

 倒れていた人が戦っているのに、私一人突っ立っている訳にはいかない。

 いわゆるアレ、詮索は後ってやつね。


『いやぁ、ほんとに助かったよ。ありがとね』

 れいはそう言ってぺこり、と会釈した。種族は人間。女性で職業はファイター。このゲームでは戦士系の一番基本的な職業だ。五二レベル。このキャラクターが一人目の新規キャラクターならまだ始めたばかりだろう。

『どういたまして。じゃ、お礼にめめたんちょうだい』

 私は冗談めかしてそう言った。キャラクターでは相手に表情も感情も伝わらないので、今の台詞の語尾に『w』を三つつける。

 めめたんというのはゲーム内の通貨だ。このゲームではゲーム内通過とはいえお金の譲渡はできない。それというのもこのFPO2はゲーム内での個人フリーマーケットができて、アイテムをゲーム内通過、めめたんで売買できるようになっている。

 その種類は、武器や防具は勿論のこと、ヘアースタイルやメイクスタイル、服、アクセサリーなど多岐に渡り、安い物では一万めめたんくらいから、高い物では数百億めめたんくらいまで、その時その時によって値段も値崩れしたり高騰したりと様々だ。

 クリスマス時期ならばサンタ衣装が高騰するし、新年ならば和装が高騰する。逆に真冬になれば水着は安価になるし、かといって夏場に絶大な人気を誇った水着が冬場になればこぞって安くなるかと言えばそうでもない。

 ネットゲームに使う言葉でもないけれど不易流行、そんなところかもしれない。

『え、お金取るのかぁ。いくら払えばいい?』

 ゲームのキャラクターは棒立ちだけれど、この台詞が表示されるまでの時間がちょっと長かったから、焦ったのかな。やっぱり初心者さんなのかもしれない。

『冗談冗談。このゲーム、お金は渡せないのよ』

 現実の私は苦笑しつつそう言ってキーボードで打った文章の語尾に『w』を一つ付ける。

『そうなんだ。知らなかった。じゃあさっきの分のアンチボディならどぉ?』

 アンチボディというのは自分が死んでしまった場合、その場で生き返るために使うアイテムだ。私がさっき使ったものは、『死んでいる他者』を生き返らせるものだから根本的にモノが違うし、安価で購入できる。今れいが言ったアンチボディはめめたんでは購入できないので、実は少しだけ貴重なアイテムなのだ。

『それもできないわよ。同じクランのメンバーとか、プレミアム会員ならできるけどね』

『えぇ、そうなんだ。じゃあどうしようかな……』

 そもそも私は見返りなんて求めていない。今のはほんの冗談だし、コミュニケーションの一環だと思ってくれないと逆に困る。話題を切り替えるために、私は一つ、れいに質問をする。

『もしかして初心者さん?』

『うん。まだ始めて二ヶ月くらい』

 五二レベルだと確かにそのくらいか。それも学校やら仕事が終わってから、夕方や夜、それと休日そんなに根を詰めてやらなくても二ヶ月くらいでそのくらいのレベルにはなる。

 そもそもこれが一般的にゲームができる、もしくはゲームをして良い時間だ。それでも巷ではそれをライトユーザーだと呼ぶのだから世の中どこかおかしい気がするのは私だけなのだろうか。

『そっか。じゃパーティ入れてくれれば手伝うけど?この先のボス、多分キツイでしょ』

 普段はあまりこういうこともしないのだけれど、今日は何故だか誰かと一緒にゲームをしたい気分になっていたので私はそう言ってみた。

 一匹狼を好む人はいるし、自分が弱いながらも強い人に助けてもらわず、負けながらでも、少しずつ、自分の力で強くなりたいという人だっている。だから私は、そうは言ってはみたものの、相手の意見を尊重するつもりだ。

『え、ほんと?そっちは付き合ってくれて大丈夫なの?えと、fanaさん、でいいのかな?』

『えぇ。私ぼっちだから大丈夫。ちなみに呼び捨てでいいわ。よろしくね、れい』

 ぼっちというのは要するに独りぼっちの略語だ。今のわたしはむしろ好んでぼっちでいる。時折、気紛れに初心者さんを助けたり、高難度の所へ行って、上級者さんと遊んだり、スクリーンショットも取れるので、カッコイイポーズで写真を撮ってみたり、楽しみ方はその時その時で色々だ。これが基本無料のゲームなのだから世の中どこかおかしいと思うのは私だけではないだろう。

『fanaが迷惑じゃなければこちらこそ』

 決まり。どうやられいは厚意は素直に受けるタイプらしいけれど、こちらが社交辞令で言っているかどうかを気にするタイプでもあるみたいだ。自分よりも上級者が自分に付き合ってしまうと時間の無駄にならないか。そんな気遣いができる人はきっと良い人だ。

『んじゃ行こ!』

 私は少し気分が良くなって、語尾に笑顔の顔文字を入れた。ぴろり、と音が鳴ってれいからのパーティーの誘いが来る。久しぶりに楽しい気分だ。私は笑顔でその申し出を受けた。

『うん、よろしくー』

 これが私とれいの最初の出会いだった。


 序章:ネトゲの出会い 終り

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