自分パラメータ配分の正しいさじ加減
ちびまるフォイ
頭をからっぽにしてください
得意不得意。才能や環境。
ランダムに個人の才能が割り振られていたのは過去の話。
今では個人で自分の才能を設定できるようになった。
「誕生日おめでとう~~! はい、プレゼント」
両親からプレゼントをもらうが、
それ以上に欲しいものはパラメータポイントだった。
「あの子ったら……プレゼントも開けないうちに
自分のステータスの割り振りをはじめたわ……」
「いいじゃないか。好きにさせよう」
両親は自分のパラメータ配分にとやかく口を出す人ではなかった。
誕生日を迎えるたびに、すべての人間にパラメータポイントが付与される。
それをやりくりして、自分の才能や個性を自分で決めていける。
「よし、これでOKだ」
俺の設定は「言語」にふりきった設定にしている。
他の能力よりも言語の才能を高めることで、
コミュニケーション能力が高くなるし、きっとモテるに違いない。
これだけ極端なパラメータ配分にしているのは自分だけのようで、
過去いちども国語のテストで2位以下を取ったことがない。
「よーーし、次は古代ヘブライ語でも勉強しようかな!
これで34ヵ国語めだ!」
言語パラメータが高ければ新しい言葉もすんなり入る。
道に迷っているあらゆる外国人をスマートにエスコートできるだろう。
「ふふふ。ますますモテちまうぜ……」
頭の中ではふとした拍子に外国語を話してしまい、
女子が「えーー今の言葉なに語?」と尊敬のまなざしを送っているイメージが浮かぶ。
翌日、さっそくそのチャンスは来た。
「
「……?」
「っと、ごめんごめん。昨日、遅くまでカクヨム語を学んでたから、つい出ちゃった」
「あっ……そ、そうなんだ……」
女子はそそくさと離れていってしまった。
おかしい。シミュレーションなら目がハートマークになっているはず。
その後、女子トイレから「朝から謎の語学力マウントとられた」という話が聞こえたので落ち込んだ。
「なんで……! コミュニケーション力がモテる秘訣ってネットで書いてあったのに……!!」
自分のパラメータ配分を間違えたと、思いつつ教室に戻った。
教室では男子同士で将棋をさしあっている。
その周りを女子が囲んでいるではないか。
(あんな陰キャ男子でも将棋だとモテるのか……?)
なおさら自分が将棋さしたらファンクラブでもできるんじゃないかと、思い対面に座った。
「よお、俺と相手してくれよ」
「いいけど……」
「先に言っておくが、俺の言語パラメータは1000だ。降参するなら今のうちだ」
俺の高らかな勝利宣言をへて将棋がはじまった。
そして開幕5秒で王手となり、俺は将棋盤をひっくり返す方式の投了を行った。
「いや弱すぎでしょ……」
「うるせぇぇ!! こんなのわかるわけないだろーー!!」
思えば自分は言語に特化したパラメータ配分をやっていた。
論理部分には一切のパラメータを割いていない。
将棋はもちろん、チェスや囲碁、オセロだって最弱だ。
「くそぉ……。割り振るべきパラメータはこっちだったかぁ……!」
すぐに言語に全投入されていたパラメータを、
今度は論議の方に全ぶっぱ。
パラメータの適用は翌日からになるので、
明日にはハイパー論理モンスターの俺が爆誕することになるだろう。
「ふふふ。明日が楽しみだぜ……!」
翌日、パラメータを一新した俺は昨日の相手にふたたびリベンジを挑んだ。
「いいけど……」
今度は開幕5秒で俺の圧勝。
相手の「王」の駒が爆発四散するほどの快勝をおさめた。
「負けたよ。ずいぶん強くなったね。ぜんぜん勝てなかった」
「あっ……(ごにょごにょ)。そっ……(ごにょごにょ)」
「え?」
「……っ! ……っ。……っ」
変だ。言葉が出ない。
「あのっ……えとっ……その……」
昨日はスラスラ出ていた言葉が、今はぶつぎりでしかでない。
単語のチョイスもおかしいものが多く、うまく伝わらない。
日本語を覚えた宇宙人かと思えるほど、
たどたどしい日本語しかしゃべれなくなった自分には
将棋のまわりを囲んでいた女子たちは見向きもしない。
負けたはずの方をチヤホヤしはじめた。
「負けちゃったけど、すごくかっこよかった」
「理知的な男性って素敵」
「~~~!!!」
勝ったのは自分だぞと声を上げたいが、
上げるべき声のセリフが思いつかない。
普段は気づいていなかったが、言語パラメータの重要性を思い知った。
その後はパラメータを50%ずつ割り振ったものの、
それだと中途半端で誰も見向きもしない凡人になりさがってしまった。
「はぁ……パラメータが足りない……。
言語も論理も、なにもかもMAXにできたらなぁ」
早く誕生日が来てくれないかとコンビニの前で落ち込んでいた。
そこに、見るからに総合値高そうなキラキラした人がやってきた。
「君、パラメータがほしいの?」
「え? ええ、まあ」
「僕のパラメータを上げるよ」
「そんな! い、いいんですか!?」
「タダではないけどね。有料だけどパラメータほしいかい?」
「ほしいに決まってるじゃないですか!!」
もう神にしか見えなかった。
パラメータをくれる人なんて考えもしなかった。
ありったけのお金をかき集めて、最大限のパラメータ値を買い取った。
「ありがとうございます! これで最強になれます!」
「それはよかった」
「でもどうしてこんな親切なことを?」
「さあ……どうしてだっけなぁ。アイデアのパラメータも出し切ったからわからないや」
パラメータを手放す、というのはある意味で自分からバカになるようなもの。
そんなもったいないことをするなんて、本当の意味でバカなのかもしれない。
とにかく神のような親切なバカからパラメータを手に入れた。
大量のパラメータは全項目にMAXまで振り直してもまだ余るほどの量だった。
「俺という完璧人間ができあがってしまった……!
明日がまったく楽しみだーー!!」
翌日、すべてのステータスがMAXになった超人は朝を迎えた。
「……」
いつものようにテレビを付けて朝食をほおばる。
テレビを見るだけで、情報のミスや嘘をあっという間に見抜けてしまう。
「どうしたの? 元気ないわね」
母親はこちらを見ながら心配そうな顔をする。
その瞳孔の収縮速度と、その後の視線の動き方で感情が読めてしまう。
「なんでも。学校行ってきます」
学校にいけば、わかりきった内容の授業を受けることになる。
絵本よりも読みごたえのない教科書を読ませられる。
体育の授業ではハイハイよりも楽な運動をさせられた。
「〇〇くん、すごい! 見直しちゃった!」
「ラインのIDおしえて!」
「今日の放課後いっしょに帰ろう!!」
女どもは目の色を変えてすりよってきた。
でも話せば話すほど、「なにつまんないこと話してんだ」と自己嫌悪におちいる。
そんなくだらないことよりも、
ヴォイニッチ手稿に書かれていることはなんなのかとか
フィボナッチ素数の無限循環が正か否かとか。
量子宇宙の波動関数に関して話せる人はいないのか。
周りが話していることは理解できても、
あまりに自分とかけ離れすぎて輪の中心にいるのに孤独感を感じる。
「俺は昨日まで……いったい何を楽しくて、どう笑ってたんだ……」
なにをしても結果がわかりきっているため、
あれだけ色鮮やかだった世界はまるでハリボテのように感じてしまった。
その日の放課後、帰り道のコンビニで落ち込んでいる人を見つけた。
「はぁ……どうしてこうなんだろう……」
周囲の状況や声のトーンから見て悩みの理由の察しがついた。
俺はこのチャンスを逃すまいと声をかけた。
「君、なにか悩んでいるの?」
「はい……。実はパラメータが足りなくて。
もっとみんなよりも優れた人間になりたいんです」
「それなら、俺のパラメータを売ってあげよう」
「え! いいんですか!!」
「もちろんだよ。これで君が幸せになれば安いものさ」
悩める男は喜んで大量のお金を貢いでくれた。
俺はパラメータのほとんどをお金に変えて渡した。
翌日、目が覚めるといつもの朝がやってきた。
「ふぁ~~あ。昨日、なにを悩んでたんだっけ?」
なんだか小難しいことを悩んでいた気もするが、
パラメータのほとんどを失った今となってはもうわからない。
テレビはいつも楽しいことを放送しているし、
友達とは昨日のお笑いの下ネタをバカ笑いして話せる。
それに今の俺は大量のお金だってある。
「これ以上の幸せなんてなーーーーい!!」
自分パラメータ配分の正しいさじ加減 ちびまるフォイ @firestorage
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