第9話 風邪
「ああ、具合わりっ」
朝にそんな言葉が自然とでた。外は晴天でよく晴れているのに、僕の体は晴れてない。
「大丈夫?一応市販薬と水は持ってきたけど」
「ありがとう。そこに置いといてくれ」
「わかった」
こういう時に家に人がいるというのは幸せだと感じる。
「じゃあ、学校に行くね。無理しないでよ?」
「わかってるよ」
僕は学校を休んだ。
彼女が学校に行って、帰ってくるまでの8時間。この時間をどう過ごすかを考えていた。なにせ、いつもそばにいる人が突然いなくなるのだから、僕の心は相当困惑していることだろう。だが、風邪は僕の身体を侵食している。
「ああ、どうしよう」
独り言が漏れてしまうほど暇だった。風邪というのは都合を考えずに襲ってくる。
とりあえず、薬を飲んだ僕は窓の外から空気を吸おうと立ち上がった。
「うわ、立つのも一苦労だな」
立ち上がるという何気ない行為にすら苦しみを覚える風邪は妙なやつだと感じた。
「ただいま」
「おかえり」
何気ない一言が僕を救った。暇な7時間は異常に辛く、虚しいものだった。
「今日はおかゆつくるね」
「本当にありがとう」
「いいえ」
この瞬間、そばにいてくれる人の大切さを改めて理解した。
「できたよ〜」
「ありがとう」
「あーんして」
「え?」
「だから、あーん」
「いや一人で食べれるよ」
「そんなこと言わずに。はいあーん」
「あーん」
「はい上手に食べれましたね」
「なんか僕のこと馬鹿にしてない?」
「してないよ〜?」
「うわ、面白そうな顔してるじゃんかよ」
「ばれちゃ仕方ないな」
僕は彼女に光らせられてる。そう確信した。
体温計を脇に刺し、数秒待つと体温計がピピっと電気的な音を発した。
「36度5分か」
「おっ、下がったね」
「うん。でも頭はまだ痛い」
「大丈夫かな。熱が下がっても無理しちゃだめだよ」
「わかってるって」
「本当かな〜?」
「本当だよ」
「それならよかった」
彼女はこれまでにないほど安堵した表情を見せた。
僕は彼女を必要としてるし、彼女も僕を必要としているということを身を持って体感した。
風邪というものは厄介で、ない方がいいかもしれない。でも、愛情を再確認するという観点においては、すごく便利なツールである。そんなことを思いながら、床についた。
起きた後、彼女は僕の横で寝ていた。
相当疲れたのだろう。寝息をすーっとたてながら、心地良さそうに寝ている。
このままだと風邪うつるぞと思い、僕は布団から出る。
体も一番ひどい時よりかは動くようになった。
僕は、彼女を眺めながら、幸せという二文字を感じた。
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