第20話 加藤の協力

教室に戻ると、しゅんは一目散に隆弘の席へと向かった。


「おい、加藤!ちょっと手伝ってくれないか!」


学園長室から戻るなり、いきなりこんなことを言うしゅんに

隆弘は困惑気味に返す。


「いきなりなんだよ!」


「とにかく、お前の力が必要なんだ!」


「は、はぁ?」

何の説明もなく詰め寄るしゅんに、隆弘はますます困惑しているようだった。

語彙力の乏しすぎるしゅんを見かねて、優美が事情を話し始める。


「実はね‥」

優美は昨日の河原でのこと、そして先程麻耶に黒幕探しを頼まれたことなどの経緯を話した。

どうやら隆弘は理解が早いようで、優美の話にもすぐに納得した。


「なるほど、それで俺に協力をね」

それで俺にという隆弘の言葉の意味が、優美には分からなかった。


「ああ、そういうことだ。力を貸してほしい」


2人は納得しながら話していたが、優美だけは加藤の力が必要だということに疑問を感じていた。


「ちょっと待って、どうしてそれで加藤くんが出てくるの?」


「ああ、そういや説明してなかったな」

とことんマイペースなしゅんに優美は少しイラッとした。

優美の心情を察してか、隆弘の方から話し始めた。


「俺の親父は、日本警察魔道課のトップなんだ。

魔道士絡みの事件なら、それなりに情報を集められると思うよ」


強力な力を持つ魔道士の犯罪。それを取り締まるトップということは、警察内部でもかなりの権力があることを意味する。

そんな大物の息子がいるとは、日本一の魔法学園だけのことはあると優美は思った。


「ま、そういうこと。素人2人で調べるより、ずっと現実味があると思ってさ」


魔法の実力以外は、取り柄がないと思っていた優美は

しゅんのこの提案に、もしかして賢いのではと少しだけ疑問を持った。


「一応俺も素人なんだが‥ちょっと待ってて」


そういうと隆弘は自分のカバンからノートパソコンを取り出した。すぐに起動させると、何やらカチャカチャとキーボードを鳴らしながら、それっぽい操作を始める。


「何やってるの?」


「ああ。親父のパスワードを使って、警察のデータベースにアクセスしてるんだ。えーっと、昨日のやつは‥」


さらりとめちゃめちゃ怖いことを言い出す隆弘に優美は少し顔を引きつらせる。


「あっ、あったよ。都内の河原にて異様な魔力が発生。

術者は今だ意識不明」


先程麻耶も、福田の意識は戻っていないと言っていたので

間違いなくこれだと、しゅんと優美はうなずいた。


「ああ、間違いない、これだ!加藤、続けてくれ」


内容はこうだった。

河原で魔法学園の生徒2人が対決しており

そこで男子生徒が異様な魔力を発生させた。

その後術者は意識不明。京都の三件と類似している点が多く、現在調査中。



「その、京都の三件っていうのは‥」


「うん。こっちも見つかったよ」

そういうと隆弘は京都の事件の資料も読み上げていった。


6月15日。京都府内の魔法学園模擬戦にて、女子生徒が異様な魔法を放つ。異変に気付いた審判である教員が試合を止めるも、女子生徒は試合を続けようとする。やむなく教員がその生徒を取り押さえると、しばらく抵抗した後に意識を消失。


3日後に意識を取り戻すと女子生徒が言うには、街で声をかけてきた男性から錠剤を一錠渡され、飲んでみると今までにない力を得たとのことだ。

なお、渡した男性の目星は立っておらず現在調査中。


「他の2件も同じような内容だけど、そっちの2人は

まだ意識が戻ってないみたいだね」


「錠剤か‥」


魔力を増大する薬。そんなものは聞いたことがなかった。


「その錠剤を配っている男がいて、そのせいで事件が起こっている。警察が掴んでいるのはここまでみたいだね」


自分達だけでは到底掴めなかったであろう情報を

一瞬で手に入れた隆弘にしゅんも優美も感心していた。

しかし、ここから先どうしたら良いかは2人とも分からないでいた。


「とりあえず、今日の放課後喫茶店でも行って一旦今回のことを整理して今後の方針を決めていこうか」


「そうね、どこかいい店この辺りにあるの?」


「すごく物知りなマスターがいる店があるんだ。親父も昔そこにはお世話になっていたっていう、とっておきの店がね」


隆弘のこの言葉にしゅんは何となく察しがついたようだ。


「いわゆる情報屋ってやつか?」


「そう、とりあえず続きはそこでしよう」

冷静でスムーズな段取りに、しゅんも優美も隆弘に協力をお願いしたことが正解だったと改めて思ったのだった。

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